【スカルプターズ・データベース】美しき仏像造形の世界・九千房政光
フィギュア、ゲーム、CM、映画、そしてアートのジャンルで最も造形力のあるスカルプター・原型師を集めた、最新データベース創刊!
【2023/1/24更新!】歴史文化+造形 祈りをこめた繊細な作品、驚異の才能
九千房政光 Profile
九千房政光とその手。
くせんぼう・まさみつ
公立中学校の美術科教諭。初めて美術部顧問を持ったのは2015年。生徒に触発され2018年から仏像制作を始める。制作過程をTwitterで掲載していった結果、多くの人に見てもらえるようになり現在に至っている。今後は現代版仏像の数を増やし、展覧会を開くことを目標とする。
2019年2月 「はこだて・冬・アート展」大賞
2020年5月 BSフジ「ブレイク前夜」出演
2020年5月 『週刊プレイボーイ』誌掲載
2020年11月 秋華洞「素材のチカラ」展出品
2021年2月 「はこだて・冬・アート展」函館市文化団体協議会会長賞
Twitter:@masa43035969
最新作
1.大日如来胸像
ベースは2作目の大日如来胸像でその原型をリニューアルしたもの
2.救世観音菩薩胸像
モデルは法隆寺夢殿にある救世観音菩薩立像をベースにオリジナル
3.弥勒菩薩座像
ベースは4作目の弥勒菩薩挫創でその原型ををリニューアルしたも
4.菩薩立像
国立博物館にある菩薩立像をモデルに作り上げたもの。
2022年で一番変化したこと
2022年3月に国内最大級のアートの祭典、
2022年で一番良かった資料
『古典彫刻技法大全』(藪内佐斗司監修)
漆の技法や古色仕上げなどの考え方など結構マニアックな内容ですが、これは良かった。
2022年で一番感動した作品
『山口晃 大画面作品集』制作のヒントになりそうなものが沢山ありました。
『THE ART OF GUWEIZ [グウェイズ画集]』この世界観結構好きです。
2022年でこれは使える!と思ったマイブームのソフト
遅ればせながらZBrushと3Dプリンタ(ELEGOO、S
作品
INTERVIEW
——小さい頃なりたかったものは?
父親が教師だったので自分も将来教師になるものだと思っていました。高校の頃のセンター模試には中学理科教員養成の欄に◯を書いていました。受験に失敗し、浪人のときに絵を描いて人物画を描いているうちに中学校美術教員もありかな?という考えが出てきました。センター試験に合格後、母校の美術の先生に二次試験のアドバイスを聞きに行ったら石膏像を持たされ電車で帰ったという思い出があります。大学時代はバンドと制作活動に勤しみ、ハリウッドへ行って特殊メイクや造形をしてみたいと思ったこともあります。
——最初に造形したのはいつですか?
高校時代に富良野スキー場のパンフレットに載っていた美しい白人女性を立体にしたいと思い石粉粘土で作りましたが、途中で挫折しています。その後、大学2年生のときH・R・ギーガの作品に興味を持ち、平面作品を立体化しました。当時は排他的でカオスな造形を好んでいました。
——出身校と、学生時代にはまっていたものを教えてください。
北広島高等学校卒業後、北海道教育大学に入学。その後同大学院を修了。当時はエアーガンや本当のサバイバル体験にハマっていました。サバイバル中にナタで中指を切断しましたが、なんとか手術に成功するも、その後遺症は今でも残り、中指を反らせることができません(利き手の写真参照)。
——なぜ仏像を作るようになったのでしょうか?また、本格的に造形した最初の作品を教えてください。
興味を持ち始めたのは大学院での日本美術の講座からです。当時はマンツーマンの授業で辛かったですが、今ならもっとのめり込んで受けていたと思います。人間にはレディネスが必要ですね。
そして、現在仏像を作るようになりましたが、作るための理由付けが必要でした。作品を作って飾るだけでも充分なのですが、それに宗教という色合いを持たせ、「拝む」「崇拝する」「拠り所とする」ような作品にしたかったのです。美術作品をそのまま放置しておくとホコリをかぶってややもすると廃棄物やゴミになってしまいがちです(大学の工芸棟横の外に放置してある先輩方の過去の作品やガラクタを見てそう感じました)。
仏像はホコリをかぶっても腕が折れてもそれは「拝む対象」であり、むしろ年季が入れば入るほど味わい深くなるのを日本人は感じとれます。それに私は惹かれたのだと思います。最初に本格的に造形した作品は大日如来の一作品目です。
——使っている粘土や愛用のツールなどを教えてください。
使っているマテリアルは主に、顔はスカルピー、体はラドールやファンドなどの石粉粘土。収縮率や硬度、粘り強さを考えながら部位に合わせて使用しています。原型をそのまま作品にすることはありません。スカルピーは経年でヒビが入ったり、もろくなってしまいます。原型は必ず型を取り、作品は別な素材に置き換えるようにしています。しかしレジンの二次原型、三次原型にすると相当な収縮を見せますので対応が必要です。
愛用のツールはアマゾンで買ったスパチュラです。そのまま使っているのもあればヤスリで先端をより細くしたスパチュラに加工したりしています。それでも追いつかなくなってきたので虫ピンをハンマーで打って、延ばして自作の極小スパチュラを作っています。
——落ち込んだ時に聞く音楽、もしくは見る映像は?
教育現場ではなかなか落ち込んでもいられず、次から次へと対処しなければいけない問題が津波のように押し寄せてきます。現場に求められるのは強靭なメンタルタフネス度とある意味「鈍感力」も必要になってくると思います。よって、聴いて落ち込みを回復する曲は特にありませんが、あえて言うならばメタリカの「Nothing else matters(ナッシング エルス マターズ)」。体の中心から湧き上がるような闘志がみなぎってきます。これいいですよ。
——造形するとき一番こだわられていることは?
造形作家の中でリアル寄りに造形されている作家さんはたくさんいると思います。フィギュアのカテゴリーでもリアルな表現をされている方々がいます。その方々に共通している目標は「より現実の人間に近づける」ことではないでしょうか?
しかし「現実の人間に近づける」ことはこの先、誰もできないと私は思っています。どんなに最先端のマテリアルを使ってもシリコンを使ったり植毛をしたりしても絶対に人間を作ることはできません。
ですから私は私の作品を人間の肌のように塗りません。人間の肌のように塗る行為は人に近づける目標とは逆行する行為と考えています。あえて塑像風な色合いや劣化した風合いで表現し「不完全の美」を目指しています。彫刻家平櫛田中が弓を射る像を作ったときにその像の手には弓はありません。鑑賞者がその腕の筋肉、ムーブマンを感じ取り、そこにあたかも弓があるかのように思わせることが真の造形と考えていました。弓を射る像なのに弓が無い。人間なのに肌色で塗らない。そこに「不完全の美」があるからこそ人間の無限の想像力に委ねて、より生きた人間に近づけるようこだわりを持って作っています。
もう一つは常に初心に返ることです。
私は作品を作るとき、他に手放したくない、手元においておきたいと感じるまで作り込みます。ですから、自分が納得いくまで仕上げるには相当な時間がかかります。2作目まで作るのに顔を14個作り変えたりしました。
しかし、作品の制作依頼などで限られた時間で作るときに、その気持を忘れがちになります。そういったときには二作品目(代表作)を作ったときのあの気持ち「初心」を忘れずに作ろうと心がけています。
——今後の野望を教えてください。
野望なので大きく
・世界に名前と作品を知ってもらいたい(まずは地上波に出ます)。
・自分の作品をお寺に祀りたい
Data
作業スペース
この中に大体のものが集約されています。左から塗料の棚、塗装ブース、その上に撮影用のアーム、真ん中には一般作業用スペース、向かいの壁に造形用の道具や素材、情報収集とライブ動画用スマホ、右側の棚には造形関係の資料、検索用PC、机の下は左からエアブラシ用のコンプレッサーとタンク、リューター、奥には作品の型、右側にはスパチュラや紙やすりなど造形用の道具や素材の引き出し、一番右に音楽用のコンポ、壁の上部、真ん中に撮影用のロールカーテン、照明関係、右側に排気用ダクトと24時間換気、一番右に冷暖房用ダクトがあり、すべて手の届く範囲でコックピットのように作業が出来ます。完全効率主義でかっこよさは目指していません。
コレクション棚はこの部屋には設けていません。今まで作った顔の原型などを保管しています。複製や型が壊れた場合にはここから過去の原型を取り出して作業に使います。
最近はまっているもの
アマゾンプライム特典を無理やり使うこと
影響を受けた(大好きな)映画・漫画・アニメ
『シンドラーのリスト 』、漫画『火の鳥』手塚治虫漫画全般、アニメ『風の谷のナウシカ』
1日に造形する平均作業時間
通常期は本業勤務後、1時間やるようにしています。繁忙期は勤務後3時間、土日9時間。