【スカルプターズ・データベース】圧倒的な観察力で命を宿す 竹内しんぜん

フィギュア、ゲーム、CM、映画、そしてアートのジャンルで最も造形力のあるスカルプター・原型師を集めた、最新データベース創刊!

【2023/9/26更新!】まるで動き出す3秒前、動きや質感を忠実に再現
竹内しんぜん Profile

竹内しんぜんとその手。

竹内しんぜん

SHINZEN造形研究所代表。1980年生まれ。香川県出身。
1995年にワンダーフェスティバルに初参加、自作模型を複製したガレージキットを販売。以降、毎年参加。2002年からオリジナルガレージキットメーカーとして活動開始。2013年、香川県文化芸術新人賞受賞。
著書に『恐竜のつくりかた』(グラフィック社)、『粘土で作る!いきもの造形』『粘土で作る!いきもの造形 恐竜編』(ホビージャパン)。生物・怪獣・アニメキャラクターなどのガレージキット・TOY・フィギュア原型制作、映画・TV・イベント・出版物への模型の貸出や販売など活動中。

X(旧Twitter):@shinzen_sl

 

最新作

ティラノサウルス胸像 Ⓒ2021 Shinzen Takeuchi

恐竜の造形では、表面のテクスチャーにリアルさを追求しがちですが、骨の形を把握するといったことも重要なポイント。
本作では、芯となる骨格を解像度の高い状態で作ってみようと思い、挑戦してみました。
ZBrushを使い、骨格のそれぞれのパーツを分解するようにバラバラの状態で作り込み、Hunterで出力。出力したパーツ群を手作業で組み立てて骨格を再現。そこにエポキシパテで肉付け。復元模型として仕上げました。
2021年制作、全高約32cm、原型素材:エポキシパテ、エキマテ(グレー)など 

 

金属化ティラノサウルス頭骨 Ⓒ2021-2023 Shinzen Takeuchi,noesis

「ティラノサウルス胸像」制作のために作った頭骨を、友人で彫金作家のnoesisさんに見せたところ、「これ、金属にしよう!」と大盛り上がり。
3Dプリンタでバラバラの頭骨パーツを再出力。この原型に、noesisさんの手で金属化に向けた改修・調整が施され、重厚な真鍮製ティラノ頭骨として仕上がりました。
レジン出力品はもろく扱いが難しかったのですが、金属化で格段に丈夫になりました。手に取ってグルグル見まわしたり、顎を動かしてみたりするうちに、新たな気付きや新しい疑問が湧いてきて、また博物館に行ってティラノの頭骨をじっくり観察したくなりました。
2023年制作、全長約11cm、原型素材:レジン、ワックス

 

ゴルゴサウルス Ⓒ2021 Shinzen Takeuchi

ゴルゴサウルスは、ティラノサウルスよりも小ぶりで細身の恐竜です。とはいえ、人間と比べると巨大で、それでいてシャープな印象もあり、実際に骨格標本の前に立つと、圧倒的な迫力と魅力を感じます。
ゴルゴサウルスの標本には、素晴らしい保存状態で発見された「ルース」と呼ばれる個体があります。その身体のあちこちには、数多くの怪我や病変の痕が残っています。そんなルースの骨格を参考に、ゴルゴサウルスの生きざまに想いを馳せつつ造形しました。
2021年制作、全長約45cm、原型素材:石粉粘土など

 

天狗 Ⓒ2023 Shinzen Takeuchi

十代前半の頃、目的もなく自転車で遠出するのが好きでした。ある日、無心でペダルを踏み続けること数時間、山間の見知らぬ土地にたどり着きました。空腹で動けなくなり木陰で休んでいると、時代劇のお百姓さん風の爺さんが現れ、おにぎりをくれました。少し躊躇しましたが、ありがたく頂きました。塩の効いた白いおにぎりでした。爺さんによると、昔、この辺りには朱鷺が来ていたそうです。
「ようけ居ったよ。たまにちょっと変なヤツも混ざっとってよ、ほかのより大きゅうていっつも一羽なんよ。初めて見たんはワシがまだこまい頃やった。別の種類じゃろか思て婆さまに聞いたらよ、そりゃぁ“天狗じゃ”言う。昔はそれ捕まえて羽根ばむしって矢なんぞこさえてよ、これ使うたら戦に勝てるぞ言うて、えろぉ高ぅ売れたんやと。まぁ、朱鷺が居らんよぅなったらあれも消えたけ、ありゃやっぱし朱鷺じゃろのぉ。」爺さんが帰り、近くの川にふと目をやると、見慣れない鳥が立っていました。「天狗だな」と直感しました。
最近、友人と「今まで食べた中で一番美味しかったもの」の話をしていて、あの爺さんのおにぎりを思い出しました。(2023年8月「幻獣神話展Ⅹ」展示作品、同展図録掲載の作品解説より。)
2023年制作、全高約20cm、原型素材:レジン、粘土、パテなど

 

ここ最近で一番変化したこと

生物をテーマに創作していると、常に、知らなかったことや解らないことにぶつかります。
その度、調べたり詳しい人に話を聞いたりするのですが、どうも「知らない」ということが恥ずかしくなってしまいます。
でも最近は、もしかしたら知らないからこそ見えて来るものがあるような気もして、「知らないことも、案外悪かないな…」なんて思っています。

ここ最近で一番良かった資料

上野にある国立科学博物館の常設展。
年間パスがあれば、1年間何度でも入館できるので気軽に行くことができます。
「天狗」を作っていた頃、たまたま上野で散歩していて「そういえば科博に朱鷺の剥製があったよな」と思い出し、ふらりと立ち寄って写真を撮って帰りました。

ここ最近で一番感動した映画

「機動警察パトレイバー the Movie 1+2 SET Blu-ray」を買いました。十代の頃から何度も観た作品ですが、やっぱり面白いなぁと…。
新しい映画では、直近だと映画『福田村事件』を観に行きました。観た後しばらく余韻が残って、直後に会った友人や、仕事先での雑談でも何度も話題になりました。

ここ最近と思ったマイブームのツール

練り板。
エポキシパテを練るときは、ゴム手袋や指サックを使って、パテを直接触らないようにしていますが、ほんの少ししか使わない場合などは、パテを練り板(木板の切れ端)の上に出して、スパチュラの先でクチュクチュっと混ぜます。手を汚さず、無駄も少なくできるので重宝しています。

作品


「家路」©︎2020 Shinzen Takeuchi

 


「セイレーン」©︎2018 Shinzen Takeuch

 


「アフリカゾウ」©︎2018 Shinzen Takeuchi

 


「守珠」©︎2012 2014 Shinzen Takeuchi

 


「ティラノサウルス(亜成体)」©︎2015 Shinzen Takeuchi

 

 

INTERVIEW

——小さい頃なりたかったものは?

絵を描くのが好きだったので、絵を描く仕事に憧れていました。

——最初に造形したのはいつですか?

現存する最古のものは3歳の頃に作った「ぞうさん」です。(どこまで親の手が入っているかは不明……。)

——学生時代にはまっていたものを教えてください。

中学生の頃だったか、一時期、木版画にはまっていました。いわさきちひろさんの絵本の絵を木版画にして遊んでました。今思うと「何故?」って思うんですが、当時はそれがすごく楽しかったんですね。子供の頃の趣味って謎ですね。

——いつ頃から原型師を目指しましたか?また、本格的に造形した最初の作品を教えてください。

小学校の文集の中に「原型師」と書いた記憶があります。
当時からフルスクラッチ作品に憧れていて、いろんな作品にチャレンジしてはなかなか完成させられずにいました。中学1年生の時、担任の先生に勧められて作った「りんご」が、模型の材料や技法みたいな意味で、初めて完成させられた作品です。当時の小遣いでは高嶺の花だったポリパテ1kg缶を親に買ってもらって、学校ではなく自宅でゆっくり作りました。


「ぞうさん」「りんご」©︎1983 1994 Shinzen Takeuchi

——使っている粘土や塗料の種類、愛用のツールなど

石粉粘土はファンド。樹脂粘土はグレイスカルピーがメインで、Yクレイ、スカルプトクレイも使います。
最近は模型用塗料の種類が増えましたね。昔からMr.カラーとタミヤエナメルを使ってるので今でもその2種が中心ですが、ガイア、ファレホなども増えてごちゃごちゃしてきました。
スパチュラは、気に入っている本数を使い分けてます。先端を好みの角度に曲げたり、少し削って調整しています。

——落ち込んだ時に聞く音楽は?

落ち込んだ時……ではないですが、大好きな音楽はジョン・レンボーンのアーリーミュージック。
ジョン・レンボーンからの流れでトニー・マクマナスも好きでよく聞きます。
最近のマイ大ヒットはトニーの「ミステリアス・バウンダリーズ」。

——造形するとき一番こだわられていることは?

丁寧に。でしょうか。
過去の作品で、雑に作ってしまった所なんかを見ると「あら残念!!」って気持ちになります。

——現在、メインでお仕事されているジャンルは?

最近は現生のいきものが多いですが、絶滅している恐竜や、ゴジラなどの怪獣も大好きです。
好きなのものは多い方だと思うので、あれこれいろいろ作りたいなと思ってます。

——今後の野望を教えてください。

いろんな動物をできるだけ近くでじっくり見てみたいですね。それで、作品にしたい。
でもビビりなので、小さくてかわいい動物を見るときでもだいたいへっぴり腰で観察しています。

Data

作業スペース

影響を受けた(大好きな)映画・漫画・アニメ

映画『ゴジラVSビオランテ』『ジュラシック・パーク』『亀は意外と速く泳ぐ』

漫画『究極超人あ〜る』『それでも町は廻っている』

アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』『機動警察パトレイバー』

最近はまっているもの

木です。巨樹を近くで見ると、怪獣を見上げるような感覚で楽しめます。製材された木材も好きで、ホームセンターの木材コーナーでテーブル用の一枚板をバシバシ買い占めるのを夢見ながら、安い端材を買って楽しんでます。

1日に造形する平均作業時間

3時間