【スカルプターズ・ムービー】衝撃の密着ドキュメンタリー『WILL』がとらえた“裸”の東出昌大。映画監督・エリザベス宮地インタビュー

テキスト・神武団四郎

俳優として活躍するいっぽう、山小屋で狩猟をしながら自給自足の暮らしを続けている東出昌大。彼に密着したドキュメンタリー『WILL』が、2月16日より劇場公開される。山にこもり黙々と狩りを続けるストイックな姿や、狩猟仲間や地元の人々との交流を通し、命と向き合う東出。1年以上にわたって彼を撮り続けたエリザベス宮地監督に、素顔の東出昌大について聞いた。

『WILL』

2024年2月16日(金)より全国公開
製作・配給: SPACE SHOWER FILMS

 

INTERVIEW エリザベス宮地(監督・撮影・編集)

――『WILL』を撮ることになったきっかけは何だったのでしょうか?

友達の写真家・石川竜一くんが登山家の服部文祥さんに同行し、服部さんが仕留めた獲物の臓器をフィーチャーした写真を撮り始めたんです。後に『いのちのうちがわ』というタイトルの写真集になったんですが、山に行ったその足でうちに写真を見せに来てくれたんですよ。そのインパクトがすごくて、それをもとに短編映画『オルガン』(22)を撮ることにしたんです。狩猟シーンの撮影で服部さんに同行したんですが、ロケハンくらいのタイミングで服部さんから東出くんが狩猟をやってると聞きました。その時は「鉄砲やってるんだ」くらいの感覚だったんですが、実際に狩猟に同行したら「どうしてこんな大変なことをしてるんだろう?」という疑問がわいてきました。すごく根気のいる作業だし、狩猟免許も毎年更新が必要でけっこう大変なんですよ。よっぽど理由があるんだろうなって。

 


時おり自問自答するように思いを吐露する姿が印象的。「劇中に使った映像や言葉は、自分が一番印象に残ったものをかき集めました」

 

――東出さんとは顔見知りだったのですよね。

MOROHAのコンサートでよく会いましたが、挨拶するくらいで人格を感じるところまでコミュニケーションはとっていませんでした。テレビや映画で見るイメージだと、硬派そうだし勝手に無骨な感じで見てました。

 

――東出さん本人の希望もあって『WILL』を撮ることになるわけですが、実際に会っていかがでしたか?

基本ずっと敬語で礼儀正しいんですが、誰とでも分け隔てなくよく喋るので驚きました。芸能人はガードが硬い人が多いのに、彼にはそれがないんです。この間も取材で京都に行ったとき2人で居酒屋に入ったんですが、当たり前ですけどよく目立つ。店員さんやお客さんから話しかけられるとサインはするし写真も撮るしで、ちょっと不思議な感じでしたね。

 

――1年以上、猟をする東出さんは監督の目にどう映ったのでしょう?

狩猟という行為、命を奪うということずっと向き合ってる感じはしましたね。それはずっと変わらなかったんですが、撮影中にどんどん明るくなったようにも思います。今の彼の生活は各所で放送されていて、「今の東出が好きだ!」ってコメントも多いですよね。撮影を始めた頃は、ふとした時に自問自答することが多かった用に思います。当時はまだ世間のことを気にしていただろうし、あまり人と会ってなかったですから。今は猟師仲間ができたし、後輩の俳優たちも猟師になったり。共感とか悩みをシェアできる人たちの存在で変化したんだと思います。

 


獲物を捕らえるとすぐにとどめを刺し、かついで山を下り処理を行う。白い息を吐きながら休まず作業を行う気力や体力に驚かされる。「獲った獣を食べるまでの過程をモザイクなしで描いています。ふだん何気なく口にしているお肉にも、ちゃんと命があったということです」

 

 

――映画では狩猟の様子が克明に描かれていますが、狩猟に同行した感想をお聞かせください。

キツくて全然ダメでした(笑)。1回の狩猟で大体2時間くらいかけるんですが、毎回獲れるわけではなく、映画の中で一頭目が獲れたのは5回目です。東出くんは単独忍び猟(痕跡を追って獲物に接近する猟法)なので、下りだろうが平地だろうがずっと同じペースで歩き続けるんです。撮影があるので頑張れましたが、カメラがなかったら挫折していたと思います。僕は自然が好きですが、狩猟はまた別というか大変なこと以外なかったですね。

 

――とくに印象に残っている出来事は何でしょうか?

動物って死んだ時に目を閉じないんです。それが強烈に残っています。正しい言い方かどうかわかりませんが、その目が綺麗なんですよ。綺麗なんですが、色が変わるので命が抜けたのがわかる。映像だとそこまで伝わらないかもしれませんが。東出くんも獣を撃ってとどめを刺し、まず目を閉じようとするんです。でも見開いたまま閉じないんですよ。そこがすごくリアルに感じました。

 

――映画に出ていた小屋でいまも自給自足に近い生活をしているんですよね。

そうですね。借家ですけど基本あそこに住んでます。基本タバコ代とガソリン代、あとは弾代、温泉代くらい。肉は自分で調達できるし、野菜は近所の人たちからもらえるそうです。女性俳優と暮らしてるという報道もありましたが、みなさん車で10~30分くらい離れた場所にバラバラに住んでいて、それぞれ猟をされています。ただ獣の解体場の確保が都市部だと難しいので、東出くんのところでやっているんです。

 

――最初に監督が感じた「どうしてこんな大変なことをしてるんだろう?」の答えは見つかりましたか?

生きるということに関して、無自覚でいたくないんだと思います。生きるには何を食べなければならない。お肉って美味しいけど、服部さんが映画の中で言っている通り、人間は生きていくために動物を家畜にして命をコントロールしているじゃないですか。東出くんはそれが許せないんだと思います。猫かわいい!犬かわいい!で盛り上がってステーキ屋行ってお肉美味しい!で終わらせるのが許せない。かわいいという感情と美味しいという感情を意識もせずに割り切って済ませないんでしょう。動物が好きだからこそ、その矛盾みたいなものに目を瞑れないんだと思います。

 


獲物を追って黙々と雪深い山を進む姿はストイックそのもの。「今でも東出くんの山には定期的にいきたくなります。電波もあまり繋がらないので、デジタルデトックスじゃないですが精神的に楽なんです」

 

 

――映画をご覧になって東出さんは何かおっしゃっていましたか?

最初、僕と高根順次(プロデューサー)さんと3人で見たんですが、地獄みたいな空気でした(笑)。見終えて、東出くんが僕と一回も目を合わせず、高根さんに「この映画大丈夫ですか?誰が見るんですか?」って怒り気味で。初めて東出くんが怒った姿を見たかもしれない(笑)。「この映画面白いですか?僕は全然そうは思わない」って。取材のたびに「僕はこの映画を多分2度と見ないし人にもお勧めできない」と言ってます(笑)。

 

――それはなぜでしょうか?

スキャンダル以降2~3年の記憶が飛び飛びになっている部分があると言ってましたが、そこに関する映像が含まれていたからじゃないでしょうか。自分で見ないようにしていたものと向き合わさせれるのがつらいんだと思います。あと、イメージしていた自分の姿と、他者のフィルターを通した自分の姿にギャップがあったのかもしれません。他者が撮った自分のプライベートな映像を140分間観続けるのは、誰でもきつい作業だと思います。

 

――ここは見てほしいというポイントを教えてください。

やはり狩猟のシーンですね。東出くんがハンバーガーを食べて命あるものだったと想像できないと言ってましたが、たぶん牛を殺して加工していく過程を見なければ想像できないと思うんです。狩猟シーンはある意味残酷ですから人によっては無理かもしれませんが、お肉を食べる人は命は何かを考えるきっかけになるんじゃないかと思います。

 

――この作品を通して監督自身に何か変化はありましたか?

自分で撮って編集しておきながら、見るたびめちゃめちゃ引きずっちゃうんですよ。自分の今の生活や仕事に対して「これでいいのか?」って。これまで自分の作品を見返すことがほぼなかったんですが、自戒も込めて『WILL』は見返しちゃいますね。だから作ったことで変わったことはあまりなく、どう変えていこうかなと考えるようになったというか。東出くんもそうだと思いますが、考え続けたいと思います。

 


映画にはMOROHAの楽曲や映像が使われている。「当初は東出くんとMOROHAが半々になる予定でしたが、撮影するにつれ東出くんの比重が大きくなっていったんです。曲のセレクトは、その時々に東出くんに起こった状況と歌詞がリンクするものを選びました」

 

Profile

エリザベス宮地

1985年、高知県生まれ。映像作家。2016年に公開した元恋人と過ごした2年間を当時の写真と映像で綴ったMOROHA『バラ色の日々』MVが話題を集める。2020年に公開した優里『ドライフラワー』MVはトータルで2億回再生を越える。ドキュメンタリーの最新作としてBiSHの解散ツアーに密着した『LOVE iS NOT OVER』、藤井風の怒涛の半年間に密着した『Fujii Kaze: grace 2022 Documentary』を2023年に発表している。

 

CAST&STAFF

出演:東出昌大

服部文祥、阿部達也、石川竜一、GOMA、コムアイ、森達也

音楽・出演:MOROHA

監督・撮影・編集:エリザベス宮地

プロデューサー:高根順次