【スカルプターズ・ムービー】美を封印したことで際立った、ありのままの亀梨和也の美しさ。『怪物の木こり』で三池崇史監督が目指したリアルな質感。

テキスト・神武団四郎

2019年第17回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した長編小説を映画化した亀梨和也主演作『怪物の木こり』。冷徹なサイコパスである主人公が、怪物のマスクをかぶったシリアルキラーに対峙する異色のサイコスリラーだ。本作は『クローズ ZERO』『十三人の刺客』など数々の話題作を手がけ国際的な人気を誇る三池崇史監督作。これが初顔合わせとなる亀梨和也と三池監督はどんなセッションを行ったのか。キャスティングからサイコパス演技のポイント、ラストシーンに込めた思いまで、三池監督がその思いを語った。

怪物の木こり

12月1日(金)劇場公開
製作・配給:ワーナー・ブラザース映画
©2023「怪物の木こり」製作委員会

 

STORY

絵本に出てくる怪物のマスクを被り、人間の脳を奪い去る連続猟奇殺人事件が発生。新たな標的にされた弁護士・二宮彰は、目的のためなら殺人も行うサイコパスだった。襲われたことを警察に届けず、同じくサイコパスの脳外科医・杉谷の協力で犯人を捜す二宮。その行動を不審に思った警視庁の戸城と乾は、捜査と並行し二宮の身辺調査も開始する。

INTERVIEW

――亀梨和也さんのキャスティングのポイントをお聞かせください。

亀梨くんは25年もアイドルをやっています。つまり自分ではない“亀梨和也”という虚像を長い間演じてきたわけで、どっちが本物の自分かわからなくなっている。本来の亀梨くんは亀梨和也に乗っ取られているという意味で、サイコパス的な美しさは身についているわけです。二宮について彼なりの捉え方ができていると思ったので、そこへの期待はありましたね。

――これまで演じてきた役とは違う美しさが際立っていると感じました。

それは彼が持っている自然な美しさだと思います。美しさだけでいえばメイクでもっと美しく見せることもできたんですが、実際は逆をやっているんです。よく見ていただくとわかりますが、わざと肌に荒れを作ったんですよ。メイクさんから「毛穴が見えるような乱れがあった方がよりリアルに感じるじゃないですか?」と提案されて、なるほどなと。普通俳優さんはそういう撮り方を嫌がりますが、彼は平気でしたね。アップでは毛穴がぷつぷつして荒れているように思われるかもしれないけど、そこにあまり神経を使わずに我々がやろうとしていることを受け入れてくれた。むしろそれを楽しんでくれていました。

――それは菜々緒さんも同じですね。

菜々緒さんのメイクも極力ナチュラルでということです。美しさが必要のない役で、直接的なラブストーリーがあるわけでもない。朝からちゃんとメイクして殺人現場に行くのもおかしな話なので、髪も本当は本番前に直すんですが、シーンによってほったらかしでいいと。逆境とまではいかなくても、突き放された役だと無意識のうちに光るんですね。だから映画の中で亀梨さんや菜々緒さんが美しく見えた瞬間があるとすれば、それはお二人の自力です。我々はノータッチどころかむしろ逆をやっているので、作られたものではなく自然な美しさが出てきたんだと思います。

――サイコパスの演技について亀梨さんとどのようなお話をしたのでしょうか?

サイコパス役はどうしても既視感の塊になってしまうんです。本当のサイコパスを見て学んだのではなく、映画のサイコパスを参考にしているので仕方ないよねっていう。だから本人に、色々やってもらっていいけど最終的に編集で全部切っちゃうかもしれないという話をして、結局は編集でけっこう切った部分もあるんです。ただし俳優としてアクセントをつけたところで、そのアクセントの部分を本人が承知の上で本能的に演じた部分は残しました。こちらがブレーキをかけるとストレスがかかってしまうので。最終的に出来上がった作品を見て、亀梨さんはすごく喜んでくれました。切ったシーンを撮った後、家に帰ってから「あれカッコつけすぎたかな」と後悔する日もあったそうですが、それが気持ちいいくらいなくなっていますね、と(笑)。編集というのはあらためて面白いなと感じました。でも切ったところも彼が演じていたことは間違いではないので、切ったといっても瞬きのあとが1秒ずれるかどうかの世界。演技のどこを使うかを、我々に委ねてもらった感じです。

――瞬きのタイミングは染谷さんも含めすごく印象的でした。

歌舞伎でもあの大舞台の中で目の動きを強調するために、瞬きを巧みに使っています。そこは重要な部分なんですね。瞬きを効果的に取り入れるのはみんな意識したと思いますが、染谷さんの場合は計算してやったというより役になりきってそれが動きに現れたんだと思います。人によっても違うので、そういう仕草を見るのも面白いですね。

――サイコパス監修で脳科学者の中野信子さんが参加されており、この作品はサイコパスに科学的にアプローチをしていますよね?

監修者には2通りいて、たとえば時代劇だと、「この掛け軸は時代が合わないから使わない」という人と、「本来まだ描かれていないけど先取りして描いていた人がいてもおかしくない」と後押しする、要は映画だから曖昧にしてもいいのではないかという人がいます。中野さんは映画がお好きと伺っていたので、何でも否定せずに一緒に可能性を模索できそうだなと思い、お願いしました。

この映画で描かれていることもフィクションではあるものの、全く不可能かと言われたらそうではない。物語の発端となる30年前はまだ脳の部位についても定かではない点も多かったはずですが、天才的な脳科学者がある可能性を思い至ることはあり得ますか?と聞くと、中野さんはあり得ますねと。中野さんの著書「サイコパス」を読むと、科学者ではあるけれどいい意味で曖昧なところをお持ちであると感じました。「サイコパスってやばい奴らなんだ」という世の中の風潮への怒りがあり、それが原動力になって執筆されていた印象があったので、そんなこともお話ししながら僕らは堂々と映像で表現しました(笑)。中野さんの裏打ちが役者の演技に影響を与えるでしょうし、そういう意味でもすごく助かりました。いろいろと知恵を絞っていただいてお墨付きをいただいたんです。

――原作とはラストが違っていますが、どういう思いがあったのでしょうか。

二宮という人物を救ってあげたかったんです。ある意味悲劇で終わるんですが、それと引き換えに人間らしい行動をしたということです。自分としては小さな希望を二宮に与え、それを客観的に見ることでホッとしながらエンドロールを見てもらえればと思いました。

――センセーショナルな面に目を奪われがちですが、ヒューマンドラマとしても見応えがあります。

「サイコパスVSシリアルキラー」という謳い文句から、どんだけ狂気的な映画だよと思われるかもしれませんが(笑)。もちろんそこに嘘はないんですけど、ある意味大きな裏切りがある。考えてみると誰しも子供の頃ピュアだったのに、さまざまな経験を重ねる中でいろんな人間になっていくわけです。ただサイコパスとシリアルキラーの物語ということではなく、彼らの行動を通して自分ならどうなるだろう、もっとこうできるんじゃないかとか、自分のこととして感じてもらえたら嬉しいですね。

Profile

三池崇史

1960年生まれ、大阪府出身。1995年に劇場映画監督デビューをはたす。以降ジャンルを問わず精力的に映画製作を続ける。『十三人の刺客』(10)がヴェネチア国際映画祭、『一命』(11)『藁の楯 わらのたて』(13)『無限の住人』(17)がカンヌ国際映画祭に出品されるなど、海外でも高く評価されている。常に刺激的な作品を世に送り続けている唯一無二の映画監督

 

CAST

亀梨和也、菜々緒、吉岡里帆、柚希礼音、みのすけ、堀部圭亮、渋川清彦、染谷将太、中村獅童

STAFF

監督:三池崇史
原作:「怪物の木こり」倉井眉介(宝島社文庫)
脚本:小岩井宏悦
音楽:遠藤浩二

#怪物の木こり