【スカルプターズ・ムービー】本人役でフィクションを演じるGENERATIONSへのアプローチ――『ミンナのウタ』の現場のリアル
テキスト・神武団四郎
ミンナのウタ
8月11日(金)より全国ロードショー!
企画・配給:松竹
©2023「ミンナのウタ」製作委員会
STORY
人気ラジオ番組のパーソナリティを務めるGENERATIONS
INTERVIEW
ラジオ番組でDJをしている小森隼は自宅マンションのエレベーターで奇妙な少女の幻影を見てしまう。鏡を効果的に使った演出やカメラワークは映像派・清水崇監督の真骨頂。
――手持ちや移動撮影などさまざまなスタイルを組み合わせていますね。
基本的に移動車やスライダーに乗せて撮ることが多かったですね。過去のパートを手持ちにしたいという監督の意図があったので、現在パートは手持ちを封印しました。というのも過去パートは回想のほか、シーンとシーンの間にも挟まってくるので、見ていてスッと入っていけるよう仕上げだけでなく現場でも手持ちとフィルターワークを使ってわかりやすい絵を作りました。
――スライダーは2本の鉄パイプが置いてあるだけに見えますが、2本のパイプは固定されていないのでしょうか?
実は2〜3mの鉄パイプを置いて、そこにスライダーを乗せただけなんです(笑)。長い距離を移動させる場合はRonin(ジンバル)やレールをひいて撮りますが、3mくらいの移動であればこういう形が多いですね。最近は小さい移動車を使ってオペレートも自分でする、要は自分で芝居にアプローチしていく撮り方をよくしています。
――ほかに何か“この作品ならでは”の機材はありますか?
監督の割本を見せていただいたら、カメラを振りながら障害物をかわすなど上下の幅がけっこう大きかったのでジブ(クレーン)も使っています。シーンによりますが、上下の動きは緊張感を出すので、そういう意味でも今回は必要だと思って用意しました。
――ざらついた過去パートの撮影ではどのようなフィルターを使ったのでしょうか?
きついフォグフィルターを普通では使わないくらい強めに入れて、仕上げでフィルムルックにしています。フォグフィルターを使うと光の拡散でホワホワになるんですが、輪郭は淡いまま黒を締めるように探った絵を仕上げでさらに探っていくという作業です。16mmフィルムをイメージし、柔らかく撮影してLUT(カラー調整のプリセット)を当てて硬くしたんです。仕上げの段階ではカラリストの佐竹宗一さんと色味をどう見せるかすごく悩んで、あえてふだん使わないような色に挑戦してどう成立させるかを探ってみました。
――現実のシーンも浅めにフィルターをかけているように感じました。
――LUTは大内さんご自身が作ったのですか?
そうですね。
――全面鏡の部屋でのリハーサルシーンで、機材やスタッフが映り込まないように移動していくカットは大変そうでした。
けっこう苦労しましたね(笑)。
リハーサル中に見てはいけないものを見てしまった関口メンディーと、その異変を察する霊感の強い中務裕太。ふたりを不審げに見つめるリーダーの白濱亜嵐とマネージャーの凛(早見あかり)。鏡張りのリハーサル室の撮影は実際のLDHのリハーサル室で行われた。
――ホテルの長い廊下で男の子が走り寄ってくるシーンで、硬い照明が上からいい感じで当たっていますが照明機材など何か工夫をされたのでしょうか?
すごく長い廊下で上下左右がすべてが映るので、照明を作り込むというよりも照明の神野宏賢さんと相談して立ち位置や走るコースを調整しました。終わりの地点から逆算して、ここからスタートすればたくさん照明を入れて撮れるという。明るさが足りないところは空室を使わせていただき、ドアを開けて神野さんに照明を足してもらいました。
ホテルの廊下に現れ走り寄る少年としお。ライトの下を通った時のみ照らされる姿の撮影は、実際の照明をメインに照明の神野宏賢氏が補助的に足したライトを使用。走るタイミングや動線は照明に合わせて細かく計算された。
――さなの家の不気味さも際立っていました。
家はロケセットで現代と過去の両パートで使っています。
さなの家に入った白濱たちの前にカセットレコーダーを首から提げたさなが現れる。現在と過去が交差するこのシーンは、それぞれの時代の照明をミックスして撮影された。
――さなの家はロケセットだったんですね。
そうなんですが、階段から落ちるところはセットです。最初はロケセットだけの予定でしたが、ロケハンでいろんな家を見ているうちに「こうやって階段から落ちてきたら面白いよね」という話が出て、最終形になったんです。ただし傷をつけないように撮るのは難しいので、美術の都築雄二さんが階段はセットで作ろうと提案してくださったんです。このシーンは合成も使っていますが、役者さんの安全の確保や合成のタイミングが計算通りにいかず大変でした。
――タイトなスケジュールとのことですが、現場はいかがでしたか?
忙しいメンバーの時間を合わせるため深夜に撮影スタートする日があったり、スケジュールは大変でしたが楽しかったですね(笑)。助手時代でもそうでしたが、清水監督の現場はみんなで「こえー!」とかいいながらつねに笑いがたえないという(笑)。ネガティブな顔して撮るのではなく、真面目だけど楽しみながらの撮影なんです。僕の場合ホラーは数年前に配信系のドラマをやったくらいで映画は初めてだったので、いろいろと悩みながら撮っていった感じでした。
――撮影監督として清水組に参加した感想をお聞かせください。
見せ方がうまいのはもちろん、あらためてすごい監督だと思いました。ホラーはロケ地での光の入り方や時間帯など現場の環境や状況によって、うまく緊張感が出せないこともあるんです。清水監督はそれらに対応しながら、さらに現場で思いついたアイデアでシーンを変化させていったりしてました。それでも「なるほど!」と思うことが多く、あらためて監督のすごさを思い知らされた現場でした。
Profile
大内 泰
1981年生まれ、埼玉県出身。2004年よりDITを経験の後フリーの撮影部に。福本淳氏や中山光一氏に師事。2016年よりキャメラマンとして活動を開始し、数々の映画やドラマ、ミュージック・ビデオ、コマーシャルを手がける。主な参加作品に、『スリル!〜赤の章・黒の章〜』(17)、『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』(19)、『ブルーヘブンを君に』(21)、『やがて海へと届く』(22)、『ひとりぼっちじゃない』(23)、『サイド バイ サイド 隣にいる人』(23)など。
CAST
GENERATIONS 白濱亜嵐 片寄涼太 小森隼 佐野玲於 関口メンディー 中務裕太 数原龍友
早見あかり / 穂紫朋子 天野はな 山川真里果
マキタスポーツ