【スカルプターズ・ムービー】佐藤健と新田真剣佑の“急接近”は計算ずくだった!谷垣健治アクション監督が語る、剣心、縁、宗次郎、沖田のアクション構成論

テキスト・神武団四郎

『るろ剣 』サーガの最終章、『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』が大ヒット公開中だ。ことばよりも剣を交わすことで剣心と縁、宗次郎、斉藤らとの憎愛を描く本作は、まさに数秒ごとにアクションの見せ場。本シリーズの谷垣健治アクション監督は、「絵になるアクション」ではなく「アクションがキャラそのもの」になるよう作り上げたという。

 

『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』大ヒット上映中!

©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

 

STORY

『るろうに剣心 最終章 The Final』

志々雄真実の日本転覆計画を阻止した剣心らは、ひさしぶりに平穏な日々を送っていた。そんな中、日本に帰国した上海の武器商人・雪代縁は、仲間と共に東京の街を攻撃。やがて彼らの狙いが、剣心ゆかりの人々であることが判明する。縁と対面した剣心は、彼が亡き妻巴の弟だと知る。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』

動乱の幕末。緋村剣心は桂小五郎の命を受け、人斬りとして暗躍していた。そんなある夜、緋村は雪代巴という若い女性と出会う。やがて新撰組の追跡を逃れ巴と農村に身を隠した緋村は、平穏な暮らしを通し自身の生き方を見つめ直す。しかし巴は緋村に明かせないある秘密を持っていた。

 

INTERVIEW 谷垣健治

脚本を読み込むとき、谷垣さんが大切にしていることは何ですか?

そりゃもうひたすらどうしたら面白くなるか、という膨らませ方ですね。ドラマに則したアクションも大切ですが、最初からそれを考えるのは危険です。ドラマから入ってしまうと、派手な動きは必要ではなくなってしまうことが多いですから。だから第一段階は、このキャラだったらこんなことやらせるのが面白いよねってところから、単純にアクションだけを考えます。それを役者に移す段階で、どう感情を乗せていくかということを相談します。話はそこから、ですね。

 


『The Final』のクライマックスの撮影中、佐藤健さん、新田真剣佑さんとアクションをチェックする谷垣さん。

 

『The Beginning』での剣心のアクション

アクション的に見ると『The Final』(以下『4』)はいつもの逆刃刀、『The Beginning』(以下『0』)は日本刀と武器が根本的に違います。逆刃刀は斬れないから叩いて倒す。一発では倒れないかもしれないから、パンパンパーンと連撃するという概念が生まれてきます。いっぽう日本刀は基本的に斬れば血も出ますし、死んでしまうので根本的に効果が違ってきます。そもそも今回は〈不殺(ころさず)の人〉ではなく、殺すつもりの人斬り時代の話なので、その違いをきちんと突き詰めれば自ずと面白くなるんじゃないかと思いました。

 


『The Beginning』の冒頭、対馬藩邸で縛られた剣心が見せる壮絶なアクション。今作のアクションは「こんな剣心みたことない」

 

佐藤健さんはどんな練習をしたのでしょうか?

佐藤健さん本人の『0』への思い入れは知っていたので、アクションにはわりと早いうちから取り組みました。日本刀は、時代劇でよくあるようにバサッと斬り倒したり、北野武監督の『座頭市』のように刃先が肉にからまりグっと力を入れなおしたり、実はいろんな表現が可能です。僕らが新たに打ち出したのは刀を体に擦らせること。深く入れるのではなく、素肌に当て刃でスライスする感じ。肉を叩くのに比べ、シュ、痛!って感覚は、やってみるとけっこう面白いんですよ。佐藤さんも、そんな“スライスアクション”を楽しんで練習していたと思います。

 

『4』の雪代縁役の新田真剣佑さんはいかがでしたか?

縁は中国帰りですが、その格闘術は完全に中国武術というわけではないです。10年くらい上海にいた設定なので、動きの端々に自然なレベルで出る程度に中国武術っぽさが出るよう意識しました。そもそもお客さん、特に海外の人たちが『るろうに剣心』に期待するのは、どこかのアクション映画のテイストを形だけ真似することではなくて、日本のドメスティックなアクションを突き詰めた部分だと思っています。縁で何より肝心なのは、剣心を倒すという意思。だから真剣佑さんには、一発一発に「これで仕留める!」という気持ちを出してもらった感じですね。逆に剣心の目的は縁を倒すことではないので、とにかく受け止める。二人の戦いは夜にはじまり、そして早朝とひと晩かけて剣心が命がけで説得するという展開です。画作りもそれを意識して、縁がカメラに向かってくる剣心のPOV(主観ショット)を少し多めにしました。真剣佑さんはもともと身体能力が高く漫画みたいな動きも不自然になることなくキメてくれるので、その異様な迫力を感じてもらえたら嬉しいですね。

 

 

 


縁の部下・呉黒星の一派と大乱闘。『The Final』の終盤は1対集団、集団対集団、1対1と多彩なアクションを展開する。

 

剣心と縁のアクションの間合いにはドキドキしました。

顔をぐっと接近させたとき、これは……と思った部分はありますけれど(笑)。でも最初の質問に繫がるけど、アクションを作る時に最初からキャラの関係性を考えちゃうと、どうしてもぬるくなってしまう。だからドラマ性を入れるのは、役者さんが入って動きをつける段階ですね。たとえば、このキャラはこういう感情だからこんな動きでとか、ニュアンスを役者さんに説明する時プラスαを加えることはありますね。それを監督が読み解いて、ドラマにその感情を持ってくこともあるかもしれないです。

 


ファンを騒然とさせたクライマックスの“急接近”は「その線でもいければいいかなと思った部分はあります」

 

『4』では神木隆之介さん演じる瀬田宗次郎も見せ場を作りました。

宗次郎が登場するのは、集団戦と剣心VS縁の中間地点。多数を相手に戦うので、ふたりの息が合ったところを見せたいという思いはありました。今回は、刀をクッと返して峰打ちで戦うか、さやのままで戦わせるか……。撮影直前にセットを下見した時に、刀は抜くけど折れて錆び付いているというアイデアが自然発生的に出て、それはいいなと。『るろうに剣心 伝説の最期編』で宗次郎は剣心に刀を折られているから、前作を観ていれば「あの刀をずっと持っていたんだ」ってわかるじゃないですか。最終的には、抜いた刀を捨て、さやで戦わせることになりました。神木さんは、峰打ちでもさやでも立ち回りは変わらないですねって感じですんなり対応してくれましたね。

 


走る、跳ぶ、打つの「るろ剣アクション」をこれでもかと詰め込んだ『The Final』は、まさにシリーズ集大成。

 

『0』では村上虹郎さんの沖田総司と剣心の戦いが見ごたえありました。

あそこは剣心VS沖田と、池田屋のシーンが交互にシーンバックするのはわかっていたので、ちょっと見え方を変えるために長回しのワンカットにしました。練習を何度もやっていく中で、虹郎さんはいい意味での図々しさがあって物怖じしないとわかっていたし、アクション部や健さんからワンカットで見せたいという要望もあったので。僕としてはトニー・ジャーの『トム・ヤム・クン!』みたいな、「ワンカットでやってますよ!見てみて!」という感じは「るろ剣」にはフィットしないので、お客さんが普通に見てて、気付いたらワンカットだったという感じにしたいなと。その狙いとしてはかなりいい線いったと思いますんで、二人の戦いに注目していただければ。

 


『The Beginning』の剣心対沖田総司。相手が誰であろうが物怖じしない性格だという村上虹郎さんは迫真の立ち回りを展開する。

 

『4』と『0』と立て続けで大変だったと思いますが、現場を振り返っていかがですか?

大変なのはいつも同じですから(笑)。「るろ剣」が面白いのは、撮っていく中でいろんなことに気づいたり、変わっていくことです。たとえばラストで縁が使った懐刀は巴のもので、姉弟が同じ刀で剣心に傷をつけるとか、気づいた人が面白がってもらえそうなストーリーがありますが、その話が出たのも撮影直前。大友組の現場だからと言って豊かに時間があるわけじゃないけど、監督が足し算、かけ算で撮る人なので、現場から生まれるアイデアがすごく多い。監督の個性が現場の個性になりますからね。『るろうに剣心』シリーズはいろんな意味で大友啓史監督だからこそ成立したし、お客さんにも受け入れられる映画になったんだと思っています。

 

 

PROFILE

谷垣健治 Kenji Tanigaki

1970年生まれ、奈良県出身。ジャッキー・チェンの影響を受け、単身香港に渡る。香港スタントマン協会のメンバーになり、スタントマン、アクション監督として活躍。2018年、『邪不圧正』によって中華圏を代表する映画賞・金馬奨の最優秀アクション監督賞を受賞。近作に『怒火 Raging Fire』(20)、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(21)など。長編監督作にドニー・イェン主演『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』(20)がある。

 

 

CAST

『るろうに剣心 最終章 The Final』
佐藤健 武井 咲 新田真剣佑 青木崇高 蒼井 優 伊勢谷友介 土屋太鳳/
三浦涼介 音尾琢真 鶴見辰吾 中原丈雄/北村一輝
有村架純 江口洋介

 

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』
佐藤健 有村架純 高橋一生 村上虹郎 安藤政信 北村一輝 江口洋介

 

STAFF

原作:和月伸宏「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」(集英社ジャンプ コミックス刊) 
監督/脚本:大友啓史 
音楽:佐藤直紀 
主題歌:ONE OK ROCK
エグゼクティブプロデューサー:小岩井宏悦 
プロデューサー:福島聡司 
アクション監督:谷垣健治 
撮影監督:石坂拓郎 
照明:平野勝利 
美術:橋本 創 
装飾:渡辺大智 
録音:湯脇房雄 
編集:今井 剛 
衣裳デザイン/キャラクターデザイン:澤田石和寛 
VFXスーパーバイザー:小坂一順 
制作プロダクション/配給:ワーナー・ブラザース映画