【スカルプターズ GARDEN】美男子を語る 第3夜・『ヒトごろし』/MIDORO 前編

美しいもの&かわいいものが好きなラボメンバーに贈るスカルプターズ GARDEN】始動!

 

注目の女性原型師に美男子造形について語ってもらう連載「美男子を語る」。第3回はMIDOROさん!

新撰組・土方歳三の生涯を独自の解釈で描いた京極夏彦の小説『ヒトごろし』の文庫版カバー造形を担当。渋い魅力をたたえたその美しい造形は話題となった。

今回は特別に前編・後編の大ボリュームでお届け!

『ヒトごろし』カバー造形/MIDORO
Original sculpture, 2020

装丁では見えない表情もミステリアス。

——本作品を作ることになった経緯を教えてください。

装丁デザインを担当されているwelle designの坂野公一さんが私のことをご存じでいてくださっていて、連絡をくださったのだと思います。

——作品のご感想は。

歳三の幼少期から、その生涯を史実から外れず、しかし鋭利で斬新な視点で追うことができます。「歳三が、初めて3行以上喋った日」「初めてひとを斬った日」「敗北した日」「笑った日」「焦燥した日」あの「池田屋事件」「山南殺し(ここが一番好き)」……と何かあるごとにすべてのページに付箋をつけて、紡がれる生涯を繰り返し記念する価値にあふれていました。

——この造形で一番こだわったところは?

顔の表情です。嵐が来て、花や草木を倒して去っていくように、何もこもっていないしぐさや容貌にしたかったのですが、そういうものを表現するって、永遠のテーマです。

あと、締め切りまでに何回作り直せるか、です(笑)。

——なぜこのポーズにしたのでしょうか?

これは、五稜郭で逃げた隊士を斬っていたところのイメージです。

——強そうに見える手ですが、コツなどはありますか?

手はいつも、時間をかければかけるほど自分の手の形に似てきてしまいます。

自分の手の好きなところはまねしています(掌が縦長なところ)。あとは、指と指の間の形(隙間)がかっこいい形になるように意識してみるのも最近やっています。

強そうに見えるためには、肉付きがどうというより、骨を意識して骨を強靭に造形してみたらどうでしょうか。肉がついても痩せても、強そうということに変わりないのを表せるのは骨ですから。あとは、爪の面積を大きくしたらどうか?と思います。

——MIDOROさんの造形は、人中と顎がしっかりしているのが印象的です。

じつは人の顔で一番好きな部分が、鼻翼下部が鼻中隔に向けて下から回り込む部分(名前わからん)と人中なのです。なのでいつもついしっかりと作っています。

そして下顎骨ですが、そこの形は、おでこの骨(前頭骨~眉弓)と上下セットで、人の顔の「門構え」であるように感じていて、しっかりとした、建付けのいい感じの縁起もいい形にしたいと考えています。でも、成人男性のイケメンの下顎骨だけ見れば、だいたいみな同じような形をしてると思います。なので、内から生まれ出しフェチというより、自分がいいと思う骨の形をまねして今に至るという感じです。ちなみに人の顔を見てイケメンだなと思うときは、おでことあごの骨が重要で、目鼻口はどうでもいいことが多いほどです。

——瞳の表現について。

少し前に画材店で衝動買いしていた、ホルベインのファインテックパールセントカラーの621番で塗りました。筆塗りです。最初から目線がどっちを見ているか作る気はなく、瞳を造形しないことにしていました。造形しながら彩色のことを考えていた時にじゃあ、目はどう塗ろうか考えました。黒目がないので、全部白目の白で塗ってもいいですが、どうせならかっこいい色で塗ろうと思い、そうなるとこの世で一番かっこいい色とは、金しかありません。良い色味の金をそれより前に手に入れていたことも、そんなことを思ったきっかけかもしれません。

——見えている片目は、何を見ていますか?

今聞かれて初めて考えてみたのですが、金色が全面に見えているというのはどうでしょうか。金で塗っているので。

——服飾の表現について。

詰襟の質感は、アクリルガッシュのカサカサに乾いたマットな塗膜が勝手に出してくれているのだと思います。

服の皺は、私は作るのがじつは苦手。しかし苦手な時は、「こうだけはしたくない」というのを決めておくといいと思います。私が一番いやなのは、皺に軽やかさがなくゴムの塊っぽくなる事なのですが、それだけ避けていれば何とかなると思うています。皺の魅力とは、やはり薄いことが伝わることと、肌との隙間がそこにあることを感じさせるような造形で感じられるものだと思います。

羽織は本当の布です。布を羽織の型紙を引いて裁断して、縫って、パテでこねて中(みごろの境目や裾など)に針金をいれて、こうかな?という形にしています。こだわったのは布選びです。

ネットで「土方歳三 洋服」で画像検索して、自分が一番無難だなと思うものを参考にしつつ、コートの長さやブーツの太さなどは素体に合うバランスに変えました。詰襟の下のシャツは、ごく薄い実際の布を使用したと思います。全身がスカルピーなのですが、異素材をアクセント的に組み合わせると見ごたえの密度?が上がったりしますよね。

——刀・和泉守兼定の造形について。

刀はちゃんとした模造刀を装丁デザインの坂野さんが用意してくれていたので、本当は作らなくてもよかったのです。しかしやりたいポーズは刀を持っていたため、模造刀を邪魔しない入れ方でそっと作って入れました。柄にまかれている紐の巻き方は、ネットで調べてマスターしたので、今度刀を作る時まで覚えていたいです。

——渋美男子のどこに魅力を感じますか?

言葉で表すのは難しいですが、男くさくて渋すぎてごつごつしてるような武骨なキャラデザがあったとして、造形でそのような要素の中に、上品さや繊細さや可憐さ、を埋め込むことができるように思うのです。これは、造形として直接は、表面に見えてきません。しかし見る人の第六感に、感じさせることがもしかしたらできるのかもしれません。

みんな好きな人や対象にそういういろんな要素を感じ、また感じようとしていると思います。「こうでなくてはならない」の要素だけでは、人間のそうした感性には足りなく、「こうじゃないかもしれない」や「こうあってはならないはずなのに」が、面白くしたり魅力を増したりするのです。

渋美男子は、そういう要素を盛り込める形の土壌がかなり広い気がします。頭や体の形は渋く見えるためのテンプレートを持っていて、こうあらないとらしくないなという絶対的基本があり、その基盤は結構頑丈で、だからこそ、違う要素の「感じ」が生きたり産まれようとしたりするのです。「優しい」や「やわらかい」などがあくまで直接的な造形ではなく「感じ」として存在するには「渋い」「鋭い」という強い基盤が必要なのです。なので、もしかすると、私は「渋い」と無関係や正反対の要素が好きなのかもしれません。

そんなアンビバレンス(使い方あってるか不明だけど一回使ってみたい)な造形欲を、広い度量で受け止めてくれるのが渋美男子の魅力、と言う事ができるでしょう。

どんな感じを出したいか、要素はどうするか、その感性やセンスの遊びができる基盤は人ぞれぞれで違いますが、その逆や逸脱した要素、について暇なとき思いをはせることも面白いかもしれません。

まだまだ続くインタビュー。次回は渋美男子・土方歳三の魅力をより深く語っていただきます!

Profile

みどろ

WFなどで版権ガレージキットを制作。時に商業フィギュアにも携わる。今のところ手原型、主にファンドとスカルピーを好む造形家。

Twitter:@_MIDORO_

 

書籍情報

『文庫版 ヒトごろし〔上〕』京極夏彦/著
1,210円(税込)https://www.shinchosha.co.jp/book/135354/

『文庫版 ヒトごろし〔下〕』京極夏彦/著

1,210円(税込)https://www.shinchosha.co.jp/book/135355/

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