【スカルプターズ・ムービー】原体験が生んだゲキメーション・ワールド『バイオレンス・ボイジャー』

テキスト・神武団四郎

友人の住む町に向かっていたボビーとあっくんは、山奥で娯楽施設「バイオレンス・ボイジャー」を発見。興味をひかれて入場するが…。切り抜いたキャラクターの1枚絵を、操り人形のように操作する紙人形劇・通称ゲキメーションを駆使して幻想的な世界を展開した『バイオレンス・ボイジャー』。ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭やカナダ・ファンタジア映画祭で受賞を果たすなど、国内外で注目を浴びる異色作に込めた思いを監督の宇治茶さんに聞いた。

 

STORY

日本の山奥の村に暮らすアメリカ人少年のボビーは、数少ない友人であるあっくんと猫のデレクを連れ、遊びに出かける。
その道すがら、娯楽施設「バイオレンス・ボイジャー」と書かれた看板を発見し、施設に足を踏み入れるボビーたち。
そこで彼らが出会った少女・時子は、数日前からここから出られずにいるという。
さらに、先客として迷い込んでいた村の子どもたちは、謎の白スーツを着た子どもの襲撃を受け、次々と捕獲されてしまう。
時子の救出と復讐のために、ボビーたちが立ち上がるが……。

 

INTERVIEW 宇治茶

『バイオレンス・ボイジャー』製作のいきさつをお聞かせください。

前作『燃える仏像人間』(2013)が文化庁メディア芸術祭のエンターテインメント部門の優秀賞を頂き、その後よしもとさんから一緒に映画を作らないかと声をかけていただきました。『燃える仏像人間』の時に、よしもとの桜 稲垣早希さんがエンディングテーマを歌って出て頂いたので、そういう繋がりもあったんです。話が出たのが2014年、動き出したのが2015年、完成したのは2017年末頃だったと思います。完成まで3年くらいですかね。

 

ストーリーはどのような形で生まれたのでしょうか。

自由に作ってよいということでしたので、僕が昔から好きだった映画を中心に作らせてもらいました。発想のベースは『ジュラシック・パーク』(1993)で、誰かが作った公園のような場所で子供たちが恐怖を体験するお話ですが、『グーニーズ』(1985)とか江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」とか数え上げたらきりがないくらい、いろんな要素が入っています。最後までお客さんに楽しんで頂けるようなストーリーに、僕が好きなものを盛り込んだ感じです。結局なんでこうなったんかは僕自身よくわからないんですけど(笑)。

 

ゲキメーションは宇治茶さんの自己流ですよね。

大学はデザイン科だったんですが、卒業制作は何にしようかと考えながらYouTubeやニコニコ動画を眺めていたら、ゲキメーション『妖怪伝 猫目小僧』(1976)がアップされていたんです。それを見た瞬間、自分が好きな絵と映画を生かせるのはこれだ!とビビビっときまして(笑)。でも作り方を書いた本などありません。ちょうどその頃に出た電気グルーヴの『モノノケダンス』のPVも同じ手法だったので参考にしたり、『妖怪伝 猫目小僧』のLD-BOXのブックレットに簡単な解説や現場の写真が載っていたのでそれも参考にして、あとは試行錯誤しながらですね。

 

宇治茶さんが使用している画材や仕組みを教えてください。

キャラクターはほとんどが4〜5センチほどなので、ハガキにアクリル絵の具で描いてます。100円均一で売っている50枚100円のはがきが描きやすかったので、ずっとこれですね。大きい絵はケント紙です。照明が透けないよう2枚貼りあわせて補強して、切り取った縁を各キャラクターの色ごとに塗り分けています。

最初は切り抜いた絵に割り箸を貼り付けて操っていましたが、棒を貼るのが面倒なので最近はダブルクリップで挟んでいます。サイズや場面によっては竹串を使うこともありますね。背景の固定のしかたを含め、まだまだ研究中という感じです。

印象的な改造人間のデザインは、宇治茶さんの姉が使っていたMDコンポと、マンドリルを合体させたもの。絵をもとにファンドでマケットを制作してデザインを詰めたお気に入りのキャラ。

 

キャラクターの表情やポーズなど、カットごとに違う印象を受けました。

カットごとにほぼ変えています。使いまわしたのは背後でピントが合ってないキャラクターと背景の一部くらい。アニメのように表情を変えられないので、カットごとに表情を変えたいという思いはありました。パソコンのカメラで自分の表情を撮影し、それを参考にいろんな表情を描き分けていきました。描いた絵の総数は数えてませんが、聞かれた時はだいたい3000枚くらいと答えてます(笑)。描き上げるのに2年ほどかかりました。


2年がかりで描き上げた3000枚にも及ぶ素材の数々。キャラクターのサイズは4〜5センチ。豊かな感情表現をさせるため、カットごとに表情を細かく描き分けている。効率化と絵の破損を避けるため、シーンごとに袋に入れて撮影まで保管された。

 

実際の撮影はどのように行うのでしょうか?

『バイオレンス・ボイジャー』のスタジオは自宅の6畳の自室です。基本的にカメラと平行に置いた背景の前でキャラクターを操るんですが、血が噴き出すところはアニメのように絵を寝かせて上から撮ったり、カットによって変えてます。カメラはマクロレンズを付けたSONYのミラーレス一眼α6500で、1カットごとSDカード経由でパソコンに移してます。合成も使っていますが、煙を含め可能な限りその場で撮るようにしてますね。実は撮りはじめの頃α7Sを使ってましたが、フォーカスが遅いのでα6500に変えたんです。ドラマ『妖怪シェアハウス』の時はマイクロフォーサーズ機を中心に使いましたが、僕の使い方だと小さいセンサーの方が合ってるかもしれません。

 

主人公の父ジョージを逆光で撮ったカットでゴーストを出すなど撮影が凝っていました。

あそこはゴーストが出やすいよう、オールドレンズを使っていろんな角度から照明を当てたんです。ジョージ・A・ロメロ監督の『死霊のえじき』のタイトルが出るところの逆光のゾンビをイメージしました(笑)。

 

撮影は何人くらいで行っているのですか?

『バイオレンス・ボイジャー』の全体の95%以上をひとりで撮影しました。移動撮影の時は片手でキャラクターを操作しながら、もう片方の手でスライダーを使ってカメラを移動させたりですね。それでも無理なところは、実家に帰ってきていた姉に手伝ってもらったり、近くに誰もいない時は画面の左右を別々に撮影して合成したり、デジタルですがすごくアナログ的な感じで(笑)。基本的に気を使うのが嫌なので、できるだけひとりでやりたいんです。

 

もっとも大変だったのはどのシーンでしたか?

火が燃えたり爆発が起こるクライマックスの戦いですかね。火や爆発は、山奥の池に花火など火が出るものをたくさん持ち込み撮りました。キャラクターの後ろに爆竹を仕込んだり、オイルをかけて燃やしたり。撮影は大変ですが、集中しだすと楽しくなってしんどさを感じなくなるんですよ。いちばん辛いのは、朝起きて「今日も朝からいっぱい描かなあかんな」って思う時ですかね(笑)。

 

宇治茶さんの作品には、異形に対する恐れと憧憬のようなものを感じるのですが。

それはあると思います。『怪物圑(フリークス)』とか『悪魔の植物人間』とか大好きですね。その根底には、肉体が変わることへの恐怖があるんです。めっちゃプライベートなことですが、うちの祖父が事故で片腕を失っていたそうで、父親も仕事で小指の一部を怪我していて、自分もいずれそうなるんじゃないかと昔からなんとなく感じてました。そこから肉体が失われたり、改造されることに対する恐怖が芽生えたんだと思います。


大学1回生の時に楳図かずおの「洗礼」を読んでホラー漫画にハマった宇治茶さん。その後は日野日出志、伊藤潤二などホラー漫画を読みまくったが、絵柄でいちばん影響を受けたのは諸星大二郎だという。

 

お化け屋敷や見世物小屋のテイストも原体験があるのでしょうか?

たとえば僕、USJの「ジョーズ」のアトラクションがすごく怖いんですよ。中に機械が入ったゴム人形が襲ってくること自体が、なぜか恐ろしいのです。子供の頃に東京ディズニーランドの「ジャングルクルーズ」で首狩り族みたいな人たちを見た時もすごく怖かったのを覚えています。そんな記憶が『バイオレンス・ボイジャー』のベースにあって、だから最初は船で周るアトラクションにするつもりでボイジャー(航海者)と名付けたんです。この映画を通し、いまの子供たちにも同じような恐怖を体験してほしいなと。映画ですから本当に襲ってはきませんし(笑)。


もっともお気に入りのキャラクターだという古池親子。父・古池荘太のキャラクターボイスは田口トモロヲが担当した。親子が中心となって展開していく中盤以降は力が入ったという。

 

これからもゲキメーションでホラー作品を作り続けていきますか?

『妖怪伝 猫目小僧』以来、ストーリーものでゲキメーション作品は誰もやってこなかったじゃないですか。それはすごくもったいないし、残念だと思うんです。どれだけCGが進歩しても、ストップモーション・アニメをいまだに作っている人はいますよね。同じようにゲキメーションも続いてほしいと思います。ホラーというジャンルも、意識してというよりふだんから生とか死とかめちゃくちゃ考えてしまうので、どうしてもそういうテーマになってしまうんです。僕としては、異形への愛情や死の恐怖をテーマにしたゲキメーションを、今後も作り続けていきたいですね。


撮影機材の発達によって、個人レベルで本格的な映画作りが可能になったからこそ、カメラに収める映像にこだわった映画作りを続けたいという宇治茶さん。現在は3作目の長編の準備を進めている。

 

PROFILE

宇治茶 Ujicha

京都府生まれ。京都嵯峨芸術大学観光デザイン学科を卒業。
大学在学時からゲキメーションという映像表現に興味を持ち、作品制作を始める。
2013年に映画「燃える仏像人間」で長編デビュー。第17回文化庁メディア芸術祭エンタテインメント部門・優秀賞を受賞。2018年には映画『バイオレンス・ボイジャー』でブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭で審査員特別賞、生き埋め映画祭 でWTF!?!アワード、ファンタジア映画祭で観客賞銅賞を受賞した。2020年はアニメ「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」OP&ED映像、土曜ナイトドラマ「妖怪シェアハウス」にて昔話パートを担当。

CAST&STAFF

悠木碧
田中直樹(ココリコ) 藤田咲 高橋茂雄(サバンナ) 小野大輔 田口トモロヲ
松本人志(特別出演)

監督・脚本:宇治茶

DVD収録内容

『バイオレンス・ボイジャー』DVD好評発売中!
発売元:よしもとミュージック   ©2020吉本興業

■本編

■特典映像
・究極のアナログ映画『バイオレンス・ボイジャー』ってなんだ?
・第11回沖縄国際映画祭舞台挨拶
・松本人志インタビュー
・予告編
・「TEMPURA」(フールジャパン ABC・オブ・鉄ドン)
・宇治茶監督最新映画特別映像

■特典音声
・宇治茶監督×安齋レオプロデューサーのオーディオコメンタリー