テキスト：神武団四郎

世界の特殊メイクアップ・ アーティストと、彼らが手がけたメイクアップ・エフェクツを集めた「メイクアップ・エフェクツ　世界の特殊メイク＆メイキングブック」がいよいよ刊行される。

本書は特殊メイクや造形の進化や歴史を豊富な写真と共に紹介したピクトリアルブック。サイレント時代の名作『オペラの怪人』から『フランケンシュタイン』、『猿の惑星』『エクソシスト』『スター・ウォーズ』『エレファント・マン』『狼男アメリカン』『遊星からの物体X』『プレデター』『ヘルボーイ』『DUNE/デューン 砂の惑星』などなど名だたる名作群の現場写真をちりばめながら、50人を超えるアーティストがその舞台裏を紹介する。

メイクアップ・エフェクツ

本書はKNB EFXの共同設立者で『フロム・ダスク・ティル・ドーン』や『ウォーキング・デッド』、オスカーを獲得した『ナルニア国物語 第1章：ライオンと魔女』を手がけたハワード・バーガーと、彼と親交の深い映画評論家マーシャル・ユリウスの共著。バーガーの呼びかけで、リック・ベイカーやトム・サヴィーニらレジェンドを筆頭にグレッグ・カノム、ノーマン・カブレラ、アレック・ギリス、グレッグ・ニコテロ、スティーヴ・ワン、カズ・ヒロ（辻 一弘）ほか業界のトップランナーが集結。ミック・ギャリスやジョン・ランディス、ダグ・ジョーンズら、メイクアップ・エフェクツと関わりの深い監督や俳優たちも参加して、その魅力を徹底的に解き明かす。

『猿の惑星』のリメイクに向けスタン・ウィンストンが行った特殊メイクのテストを、息子マット・ウィンストンが解説。最終的に担当したリック・ベイカーとウィンストンの方向性の違いがよくわかる。

これまでもメイクアップ・エフェクツ関連の書籍は数多く出ているが、本書が特別なのはアーティストにスポットを当てていること。自身の参加作品の解説をはじめ、もっとも影響を受けた作品やアーティストについて、アマチュア時代の試行錯誤からプロになったきっかけ、どのようにスキルを磨いていったのかなどヒストリーや思いを紹介。師や仲間たちとのやりとりや心に残る出来事、今だから明かせる失敗談、身も凍るトラブルまで現場のリアルを赤裸々に語っている。

『DUNE/デューン 砂の惑星』でハルコンネン男爵を演じたステラン・スカルスガルドのボディスーツ装着風景。デジタル処理する予定だったハルコンネンをメイクアップ・エフェクツに変更したいきさつが語られる。

特殊メイクブームの起爆剤のひとつになった伝説のMV『スリラー』のメイキング。リック・ベイカーとジョン・ランディスが、マイケル・ジャクソンとのやりとりから過酷な撮影現場までその舞台裏を語る。

多彩なエピソードを通して明かされるのは、テクニカルな面はもちろん、意外な人間関係、ジャンル映画の変遷やカルチャーとしての側面、仕事に対する向き合い方からその哲学まで幅広い。最前線で活躍するアーティストたちの発言だけに、メイクアップ・エフェクツ関連だけでなく、創作活動を行うあらゆるクリエーターにとって新たな発見があるだろう。320ページものボリュームの本書には、アーティストたちが提供した現場写真のほかハワード・バーガーが少年時代に特殊メイクの父ディック・スミスからもらった血糊調合法の手紙など貴重な図版も多く、それら眺めているだけでも楽しめる。

アメリカの名物ドラマシリーズ『Dark Shadows』をティム・バートン監督が映画化した『ダーク・シャドウ』。特殊メイクを手がけたジョエル・ハーロウは、ジョニー・デップのいたずら好きな一面を明かす。

ジョン・カグリオーネ・Jr は、いまや伝説となった『ダークナイト』のジョーカーのメイクのポイントを解説。バリー・ガワーは『ゲーム・オブ・スローンズ』の“夜の王”のデザイン誕生秘話を披露する。

序文を書いたギレルモ・デル・トロの代表作のひとつ『シェイプ・オブ・ウォーター』。レガシー・スタジオのマイク・ヒルは天才デル・トロの“突拍子もない”発想力やクリーチャーに対する強いこだわりを紹介。

日本版発行にあたっては、『パシフィック・リム』や『マン・オブ・スティール』､『キャプテンマーベル』などハリウッド大作で活躍している彫刻家・キャラクターデザイナーで、映画監督として『ゲヘナ〜死の生ける場所〜』『END OF LOYALTY』を手がけた片桐裕司氏が日本語版監修を担当。海外を目指すアーティストやクリエーターを視野に、言いまわしや固有名詞のチョイスにも目を配っている。現役で活躍中のクリエーターはもちろん、これから業界を目指す予備軍にとっても必携の一冊と言える。

書籍概要

メイクアップ・エフェクツ　世界の特殊メイク＆メイキングブック

2023年3月31日発売
A4変型判　320ページ
定価：本体5,400円＋税
発売・発行：玄光社