【スカルプターズ・ムービー】川村真司×ドワーフ×TECARATの長編コマ撮りプロジェクト始動! 歴史創作、メタ、超絶アクション——全部入りエンタメ時代アクション『左』の現場

テキスト・神武団四郎
取材写真:鈴木希代江

 

クリエイティブディレクターとして国内外で活躍している、Whateverの川村真司氏による長編ストップモーション・アニメーション『左』プロジェクトが進行中だ。ストップモーション制作は日本を代表するアニメーション・スタジオ、ドワーフとTECARATが共同で担当。現在はパイロット・フィルム(2023年春公開予定)の制作が行われている。原案、キャラクター原案も手がけた川村監督と、本プロジェクトの仕掛け人であるドワーフの松本紀子プロデューサーに『左』の舞台裏を聞いた。

 

『左』テストムービー

『左』は、江戸時代に彫刻の匠として名を馳せた左甚五郎をモチーフにしたアクション時代劇。片腕の彫刻職人・左甚五郎が巨悪に挑む物語が、木彫り人形を使ったコマ撮りで描かれる。歴史上の人物や出来事を絡めた“歴史の二次創作”の楽しさに加え、日光東照宮の眠り猫をはじめ息吹を感じさせる木彫り作品で知られる左甚五郎を木彫り人形で描くというメタ的面白さも本作の魅力。すでにネットではテストムービーや制作風景の公式動画が公開中だが、ダイナミックなアクションや緻密に作り込まれた人形や美術など、高いクオリティにも驚かされる。

 

STORY

仲間の裏切りによる江戸城改築工事の事故で、育ての親である棟梁や仲間たち、そして自らの右腕を失った大工の甚五郎。そして数十年後。様々な大工道具と右腕に装着したカラクリ義手を武器に、甚五郎は相棒の「眠り猫」と共に復讐の旅を続けている。人はいつしか彼のことを「左甚五郎」と呼ぶようになっていた。様々な歴史上の人物との邂逅や、奇抜な悪党たちとの激しい戦いを繰り広げながら事故の真相へと近づいていく甚五郎。やがて将軍家の陰謀に辿り着き、巨大決戦兵器と化した江戸城から江戸の街を救うべく、大工の技術と新たな仲間たちの力を借りて立ち向かっていく……。

 

INTERVIEW 川村真司(企画・原案・監督)× 松本紀子(プロデューサー)

——左甚五郎の物語という発想はどのように生まれたのでしょうか?

川村真司(以下、川村):左甚五郎という人物に興味を持ったのは大学生の時でした。もともとアニメーションが好きで、ゼミでその語源が「命のないものにアニマ(命)を宿すこと」だと知ったんです。手描き作品もそうですが、何より人形が命あるように動くコマ撮りのほうがしっくりくる表現だなと。その頃に興味を持ったのが、彫った生き物が動き出したという逸話を持つ左甚五郎でした。日光東照宮の眠り猫など左甚五郎作と言われる作品は多いんですが、歴史を遡っても人物像どころか実在したのかすらわからない。作品が作られた時代も3、400年ほどスパンがあるというミステリアスなところにも惹かれ、何らかの形で作品にしたら面白いなと心に留めていたんです。そして2020年、松本さんから一緒にオリジナル企画を考えませんかとお誘いいただいた時にふと左甚五郎のことを思い出したというわけです。

 

松本紀子(以下、松本):川村さんとは、NHK連続テレビ小説『スカーレット』(2019)のオープニングや、安野モヨコさん原作の短編『オチビサン The Dairy of Ochibi』(2015)、『DOMO! WORLD』(2017)などでもご一緒したので、コマ撮りが大好きなのはよく知っていました。こんどは長編を作ってみませんかってお話をしたらたくさん企画を出していただき、そのひとつが「左甚五郎」だったんです。

 

川村:左甚五郎の物語を、自らの逸話と同じように木彫りの人形をコマ撮りで動かし命を吹き込むことで描けたら面白いんじゃないかと考えたんです。時代劇のコマ撮り作品もほとんどないし、日本人にしか作れない世界観なら世界で勝負できると盛り上がって決めました(笑)。

 
 
 
主人公は江戸初期に実在したといわれる彫刻職人・左甚五郎。日光東照宮の眠り猫をモデルにした猫が、彼と一緒に旅をする相棒として登場する。今作のアニメーションは2班体制で撮影が行われるため、八代健志氏は木彫りの左甚五郎を2体制作。なお人形の表情は、主に眉と眼球の動き、口の開閉で表現している。
 

——最初からアクション映画を想定していたのですか?

川村:はい、これまで見たこともないような、エンタメ性の高いコマ撮りアニメーションにしたいという思いがありました。ジャパニメーションや実写だとザック・スナイダー監督のアクションシーンみたいな世界観をイメージし、カメラワークを含めコマ撮りでしか表現できないような演出を実験的に作っていきました。ドワーフさんといえば愛らしい人形のイメージもありますが、そうではなく、思わず「かっこいい!」と言ってしまうような映像表現にしたいなと。

 

松本:原作ものが多い中、歴史を題材にした、要するに「歴史が原作になっている」フィクションで、アクションがあり、なおかつ木彫りの人形でやるという発想がすばらしいな!と。そして、フィジカルなコマ撮りならではの企画かなと。ただ、木彫りのコマ撮りというとアーティスティックで渋い感じの作品だと思われがちなので、プロモーション・フィルムはアクションの面白さを見せたかったということもありますね。ここまでの殺陣になるとは思ってもいませんでしたが(笑)。

 

パイロット・フィルムとして制作中の今作は、左甚五郎が因縁の敵と邂逅するする「エピソード0」。復讐に燃える左甚五郎とかつて彼を裏切った犬丸の戦いが描かれる。本パイロットを足がかりに、最終的に90~120分の作品を想定しているという。「まだプロットの段階ですが、歴史上の人物や事件を取り入れながら展開します。1680年代の設定なので、最終的に徳川家なども絡んでくる予定です」(川村監督)

 

——木彫りの人形制作はTECARATの八代健志さんが担当されています。

川村:実はTECARATをはじめる以前、太陽企画(TECARATの親会社)で演出やアニメーションをしていた八代さんを知っていて、一緒にコマ撮りのお仕事をしたこともあったんです。それからすいぶん経って八代さんが監督された『ごん GON, THE LITTLE FOX』(2019)を拝見し、ディテールのこだわりやデフォルメの仕方を含め、これまで見たことのない美しさに驚かされました。それで『左』が木彫りでいこうと決まった時、真っ先に八代さんに参加してもらえたら嬉しいですとお願いしたんです。

 

松本:どういう座組みを作るか考えたとき、ドワーフがTECARATさんにお願いするというよりも、Whateverさん、TECARATさん、ドワーフが得意なところを持ち寄る共同事業のほうがいいだろうと思ったんです。そこで太陽企画さんにお願いしにいきました。

 

個性豊かなキャラクターは、川村監督の原案に基づき共同監督の小川育氏、立体キャラクターデザインの八代氏を中心にデザインされた。「ごつかったり渋かったりいろんなデザインが出ましたが、最終的に少しイケメンに寄せてもらいました」(松本)
 

——川村監督のキャラクター原案を、共同監督/キャラクターデザインの小川育さんが人形用にデザインし、八代さんが実際の人形にしたという流れですか?

松本:そうですね。でも八代さんも「こんなイメージどう?」とデザインを描いてくださいました。決定までに双方からたくさんのデザイン案が出たし、そこに至るまでみんなでフランクに意見を差し込みあってできたキャラクターたちなんです。

 

川村:僕の中では“八代化”って呼んでるんですが、スケッチから立体の木彫りになるところでとんでもなくクオリティがジャンプするんです。それは八代さんのアーティスト性にすごく影響している部分なので、彼がいなかったらこの個性的で生き生きとしたキャラクターたちは生まれなかったなとすごく感謝しています。

 

いまにも動き出しそうな躍動感あふれる八代健志氏のマケット。『ヘルボーイ』を思わせる右手の巨大な義手も存在感を放っている。「実は大好きなんですよ、マイク・ミニョーラ(笑)」(川村監督)

 

——甚五郎の巨大な右手の義手にも目を引かれました。

川村:左甚五郎の名前の由来は諸説あって、妬まれて利き腕の右腕を切られ左手しかなかったからとも言われています。利き腕をなくしてもすごい作品を彫り続け、さらには自ら彫った義手の右腕が武器にもなっていたらキャラクターの設定として胸熱だなと思ったんです(笑)。木でできた体に木の義手が付いているということも、この世界における「生き物」と「作り物」の定義が曖昧になって面白いなと。ですから義手の設定は早めに決めて、八代さんや人形設計の原田脩平さんとサイズやデザインを詰めていきました。

 

——手描きアニメのようなデフォルメされたアクションを、レンズを変えながら人形で表現するなど凝った描写も驚きました。

川村:これはアニメーターの稲積君将さんの功績が大きいのですが、革新的なアクション作画で知られる金田伊功さん風のデフォルメ感と言いますか、日本のアニメでは古くから観られるような独特のアクションを、画角やレンズをバンバン変えながら人形でやるのは新しい表現になるんじゃないかと話ながら作り上げていきました。僕らも「これは世界初じゃないの?」と自画自賛し合いながら作ってました(笑)。作業はとても大変ですが、このチームじゃなきゃ作れないものを目指し、出し惜しみせずに観たいと思った映像をひとまず作り切った気がします。

 

松本:アニメーターに関しては、これまで何度もお仕事をしてきた稲積さんとオカダシゲルさん。どちらもドワーフ所属のアニメーターではないんですが、この作品にぴったりなのでお願いしました。『KUBO/クボ』や『犬ヶ島』など海外にも日本をテーマにしたコマ撮り作品は結構あるじゃないですか。コマ撮りに向いている素材だからそこを掘るんだと思うんですが、それを日本人が本気でやったらどうなるかもこの作品のチャレンジで、すごく面白いものになったと思います。今年の6月、テストフィルムを「アヌシー国際アニメーション映画祭 2022」に持っていったんですが、海外の方たちにもめちゃめちゃウケてました。

 

川村:アニメーションの魅力は、実写では撮れない構図やアクションにあると同時に、その質感・物感自体で世界観を作れるところだと思うんです。人形を使ったコマ撮りは作業が大変なのでアニメーションのメインストリームになりにくいんですが、実写の質感をその空気ごとフレームに収めることができるところが素晴らしいと思っています。今回、業界のトップの方たちたちと一緒にコマ撮り作品を作ることができて嬉しいと同時に、世界中の人たちをうならせる作品が作れるなとワクワクしながら携わらせてもらってます。

かわいい系からアクションまで、何でもこなすアニメーターのオカダシゲル氏は、芝居シーンを中心に担当。空白恐怖症的に小道具で埋め尽くされたセットの床から体を出してアニメート中。

 

メインアニメーターの稲積氏、オカダ氏のほか、モブシーンと呼ばれる“雑魚キャラ”たちのアニメーションで若手アニメーターたちも参加した。悪役犬丸の手下のモブをアニメート中の小長谷陸人氏。

 

Profile

川村真司[企画・原案・監督]

Whateverのチーフクリエイティブオフィサー。180 Amsterdam、BBH New York、Wieden & Kennedy New Yorkといった世界各国のクリエイティブエージェンシーでクリエイティブディレクターを歴任。2011年PARTYを設立し、New York及びTaipeiの代表を務めた後、2018年新たにWhateverをスタート。数々のグローバルブランドのキャンペーン企画を始め、プロダクトデザイン、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など活動は多岐に渡る。カンヌ広告祭をはじめとした世界で100以上の賞を受賞し、アメリカの雑誌Creativityの「世界のクリエイター50人」、Fast Company「ビジネス界で最もクリエイティブな100人」、AERA「日本を突破する100人」に選出されている。

Whatever Inc. [クリエイティブディレクション・PR]

東京、ニューヨーク、台北、ベルリンを拠点として活動しているクリエイティブ・スタジオ。広告、イベント、テレビ番組の企画・制作、サービス・商品開発など、旧来の枠にとらわれないジャンルレスなクリエイティブ課題に対して、世界的に評価されている企画力・クラフト力を持つメンバーと、最新の技術を駆使した開発を実行できるメンバーが共同で携わることで、「世界の誰も見たことがないけれど、世界の誰もが共感できる」ようなアイデアを作り続けています。

所在地(東京オフィス):東京都港区六本木7-2-8 WHEREVER 7F
Webサイト:https://whatever.co

松本紀子[プロデューサー]

広告映像業界からキャリアをスタート。プロデューサーとして、コカ・コーラ、マクドナルドをはじめとした多くのコマーシャルの制作に関わる。1998年の「どーもくん」、2003 年東京都写真美術館「絵コンテの宇宙イメージの誕生」展での「こまねこ」誕生などが転機となり、キャラクター開発やアニメーションの作品制作へと活動のフィールドを広げる。2003 年ドワーフの立ち上げに参加し、2006 年に完全に移籍。ドワーフが得意とするストップモーションによるコンテンツ制作で、日本のスタジオとしては、いちはやく配信のグローバル・プラットフォームとの仕事を始め、2016 年に「こまねこ」がAmazon prime video original のパイロットシーズンに採用され、Netflix ではシリーズ「リラックマとカオルさん(2019 )」が話題に。昨年はコロナ禍だからこそとの思いで国内外の舞台制作者とのタッグを組み「ギョロ劇場へ」をプロデュース。他にも数々のオリジナル作品、コラボレーションプロジェクトなどが進行中。 Netflixからのシーズン2となる「リラックマと遊園地」が8月25日から配信開始。

ドワーフ[アニメーション、プロダクション]

世界中の人気者となったNHKキャラクター「どーもくん」、フランスでロングラン上映を続ける「こまねこ」をはじめとして、数々のキャラクターやコンテンツを生み出し、卓越した技術力のこま撮りを中心とした映像作品で、国内外で評価され活躍するストップモーション・アニメーション制作スタジオ。オリジナル作品のみならず、さまざまな⼈気キャラクターや有名コンテンツと積極的なコラボレーションもおこなっている。近年ではNetflixオリジナルシリーズ『リラックマとカオルさん』の制作・プロデュースを⼿掛けている。

Webサイト:https://dw-f.jp/

TECARAT(太陽企画(株))[木彫人形造形、美術]

ストップモーションアニメーション作家八代健志率いるアニメーションスタジオ。オリジナルコンテンツと広告に関わるアニメーションや美術制作を行っている。名前の由来は「手から」。切り、削り、研ぎ、磨く、現場から生まれる感性を生かし、素材感に溢れる作品を作り続ける。

Webサイト:https://tecarat.jp

作品情報

タイトル:左
パイロット版公開予定:2023年春 ※変更になる可能性がございます。
原作・監督・脚本:川村真司
クリエイティブディレクション:Whatever
プロデューサー:松本紀子
アニメーション・プロダクション:ドワーフ
造形・美術制作:TECARAT
人形デザイン・造形・美術:八代健志
クレジット:©dwarf/Whatever/TECARAT
公式Webサイト:http://hidari-movie.com
公式Twitter:https://twitter.com/hidari_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/hidari_movie/

 

STAFF

原案/キャラクター原案/監督:川村真司(Whatever)
キャラクターデザイン/共同監督:小川育(ドワーフ)
立体キャラクターデザイン/木彫/美術コンセプトアート:八代健志(TECARAT)
人形設計:原田脩平(ドワーフ)
人形制作・アーマチュア設計・美術小道具制作:上野啓太
人形制作・衣装:﨑村のぞみ、根元緑子(TECARAT)
美術デザイン・美術セット、小道具制作:能勢恵弘(TECARAT)
美術セット、小道具制作:中根泉(TECARAT)
人形・美術制作進行:加倉井芳美(TECARAT)
ナイショの特殊造形:武内勲
アニメーター/アクション・クリエイター:稲積君将
アニメーター:オカダシゲル
応援アニメーター:小川翔大
アニメーターアシスタント+アニメ効果素材制作:小林玄
アニメーターアシスタント+モブ・アニメーター:加藤鳳、山中美咲、小長谷陸人
撮影/撮影設計/モーションコントロール:杉木完(ドワーフ)
照明技師:加藤祐一
撮影助手:加藤英彦(ドワーフ)
照明助手:鈴木寛人
音楽:Shing02、SPIN MASTER A-1
編集:帆足誠
プロダクション・マネージャー:内田あやめ(ドワーフ)
プロダクション・アシスタント:里村絵美(ドワーフ)
プロデューサー:松本紀子(ドワーフ)、相原幸絵(Whatever)及川雅昭、大内まさみ(TECARAT)