全長約10メートル!『ウルトラ怪獣もののけ絵巻』制作の秘密をもののけアーティスト谷村紀明氏に聞いた

 

ウルトラマン55周年を記念した『ウルトラ怪獣もののけ絵巻展』がshina銀座ギャラリーにて開催され、大変な盛況ぶりを見せている。『ウルトラ怪獣もののけ絵巻』は、『ウルトラマン』『ウルトラQ』に登場するおよそ80体もの怪獣をもののけと融合させ、全長約10メートルの絵巻として表現したアート作品だ。


画材やラフ画など、絵巻の制作過程もわかる貴重な展示になっている。

 

この絵巻を描き上げた「もののけアーティスト」の谷村紀明氏は語る。
「今回、私はもののけアート担当で、ウルトラ怪獣の知識に関しては本企画をプロデュースしてくれた『クリエイティブチーム 操演と機電』のタカハシヒョウリさんとナカムラリョウさん、それから円谷プロさんのご協力があって初めて完成できました」
『ウルトラ怪獣もののけ絵巻』はいかにして出来上がっていったのか。その制作の裏側を、谷村氏に伺った。

 

実際にどうやって描いてるの?

――ウルトラ怪獣ともののけのデザインをどうやって融合させたの?

ウルトラ怪獣が大好きで、とてもよく知ってる「操演と機電」の二人とブレストしながら一緒に作り上げた感じですね。 「百鬼夜行」や「鳥獣戯画」はもちろん、「山海経」(中国の古代地理書)も参考にしています。今回に限らず、普段から書籍以外にも色々インプットなどはしていますね。


参考資料にした書籍の一部。

 

ウルトラ怪獣の方は、まず二人からその怪獣の特徴とかヒントになるような箇条書きのテキストをもらい、画像資料や映像資料を見ながら、それらをもとにだいたいのベースを描いてみる。それをチェックしてもらって、描き直したり足したり減らしたりなど。円谷プロさんの監修に出す前に、まず自分らで納得できるかどうかってところにこだわりました。それぞれの得意なところを持ち寄せて作るというやり方で。これはホントに一人じゃできないです。


もののけをベースにウルトラ怪獣のヒントや特徴を落とし込んだラフ画。これらは会場内にも展示されている。


上のラフ画が、このように完成!

 

操演と機電の二人が言うには、「もののけスタートでゴールはウルトラ怪獣」。もののけ好きもウルトラファンも、どっちも知らない人も「みんな楽しいギリギリのラインを探していく」っていうことです。一体一体その綱引きをしながら、まさにギリギリのラインを探していきました。その上で円谷プロさんに監修していただき、細かなディテールの部分でご意見をいただくという作業の繰り返しです。ご指摘があった部分を修正すると、パッと見てそれがどの怪獣かきちんと分かるようになる。「あぁ、なるほどなぁ」と思いましたね。

 

――実際の制作期間や制作過程は?

このプロジェクト自体は1年以上かけてます。ウルトラマン55周年に照準を合わせてプロジェクトを進めました。下絵には3ヶ月かかってますね。ここが本当に制作の肝でした。
着画は一気にやらないといけないので1ヶ月くらいです。泥がすぐ乾くので。今回の展示では絵巻を4面に分けているんですけど、ちょうどその1面あたりをだいたい1週間のペースで描きました。
下絵は、A4の用紙を何十枚も貼り合わせて絵巻の実際の長さにして、鉛筆で原寸大で描きます。この下絵の段階で、円谷プロさんに監修に入っていただいています。

 


原寸大で制作した下絵。

 

下絵を参考にしつつ、本番は筆で描くので一発勝負です。


失敗できない神経を集中する作業だが、泥は乾燥が早いので時間との戦いでもある。

 

――改めて、『ウルトラ怪獣もののけ絵巻展』の見所は?

今回の展示では、約10メートルの絵巻の四分の一ずつを週替わりで4週に渡って公開しています。『ウルトラQ』の時代のものはモノクロで、カラー放送になった『ウルトラマン』からは顔彩で彩色してカラーで描いています。時代が進むにつれてウルトラ怪獣に使われる色もカラフルになってくるので、絵巻もどんどんカラフルになっていきます。

実際、展示が変わるごとに観に来てくださるお客さまもいて、ホントに嬉しいですね。ぜひそんなところも楽しんでいただければと思います。


圧巻の全長10メートルの『ウルトラ怪獣もののけ絵巻』。時代が進むにつれ、モノクロからカラーに。

 

――画材に宿るエネルギーのストーリーとは?

私の場合、単純に「紙に絵を描こう」じゃなくて、「どういう紙に描くか」って結構大事なんです。今回は、その素材に真菰(まこも)を使用させていただきました。真菰は縄文時代から日本に自生している植物で、出雲大社のしめ縄や神事にも使われているんですよ。神様が宿る植物。そういうストーリーも調べながら、これを和紙にできたら面白いなぁと思いました。現在、真菰で作られた和紙はほとんど無く、過去には作られていたみたいなんですが、後継者がいなくて途絶えてしまった。でも、たまたまある和紙職人さんらが真菰和紙を復活させようっていうのを掲げたタイミングで偶然出会ったんです。まさにご縁で、和紙制作をご一緒させていただくとなり、今回この絵巻のためだけに和紙を開発しました。


和紙職人さんと真菰和紙を漉く。配合が難しく、何度も試作を重ねる。

 

真菰で作った和紙にも作り方は何百通りもあって、この絵巻にあった配合を色々試しました。真菰の繊維と、真菰を粉末状にしたパウダーの配合で背景の表情が全然違ってくるんですよ。パウダーが多すぎれば普通の和紙になっちゃうし、繊維が多すぎると絵より背景が立ってくる。ちょうどいいバランスを何回も検証して作ったのがこの絵巻のベースとなった真菰和紙なんです。


(左)この絵巻のために作ったオリジナルの真菰和紙。 (右)和紙を拡大すると真菰の繊維がわかる。

 

塗料は、真菰に付着していた泥を使用しました。真菰には浄化作用があると昔から言われており、泥自体もキレイで絵の具みたいな質感なので、これだったら和紙に入りそうと思いベースとなる塗料に決めました。

また筆にもストーリーがあって、「雷の化石」と言われるフルグライトでできた筆なんです。
「何で絵を描こうかな」と思っている時に、偶然出会った石です。雨宿りしようとたまたま入ったお店で石を売っていて。そこに龍みたいな石があって、「カッコイイ!何ですか、この石?!」「雷でできた石なんです。数日前に入荷したばっかりなんですよ」って。砂丘に約6億ボルトの雷が落ち、一瞬で凝固してできた石だそうです。しかも、普通は真っ黒なのが、これはキレイなピンク色で希少性も高い。手に入れて早速筆をつけ、雷のエネルギーで描いてみました。だから、和紙も泥も筆も全部、たくさんのエネルギーが宿った絵巻なのです。


(左)泥を墨で溶いて塗料にする。 (右)「雷の化石」と呼ばれるフルグライトという石で作った筆。

 

――最後に「もののけアーティスト」って?

「もののけ」とは、神さまとか目には見えない不思議な存在だとか、自然現象とか自然そのものや、妖怪なども含めて全部ひっくるめて「もののけ」だと思っています。 人工物・自然物にも、何らかのエネルギーを発していて、それらのメッセージを作品を通してわかりやすく伝えたり、感じてもらえたりすることというのが、もののけアーティストの使命だと感じています。

 

――谷村氏のもののけアートの原点とは?

私は、京都出身でまわりに神社とか寺などがあり身近な存在でした。子どもの頃から狛犬とか境内にある木彫りの龍とか、最初はそういうデザインがカッコイイと思って好きで、自己流で絵を描いたりなんかしていたんです。 そこから「なんでここに龍があるんだろう」とか、「なぜこういうデザインなのか」と思うようになって。住職さんに聞いたり意味を調べていくと、これが結構面白い。

例えば、「共命鳥(ぐみょうちょう)」っていう鳥がいるんですよ。身体は1つだけど頭が2つある双頭の鳥で、この2羽が仲悪い。それで片方がもう片方に毒を盛ったら、身体は1つなので両方死んでしまった、っていう仏教のお話があったりするんですね。 単純にデザインがカッコイイなと思って意味を調べると、ホント面白い、一体のキャラクターにもちゃんとストーリーがある。 そこからどんどん、もののけとか妖怪とか神獣とかを調べたり想像したりして、いまの創作活動に結びつきました。

 

――今後の展望は?

後々、これを造形にもしたいですよね。『ウルトラ怪獣もののけ立体絵巻』みたいな。あと、個人的にはVRやデジタルも絡めていき、この絵巻の世界に入っていけたらいいなぁ、とか。ウルトラマンの歴史はとても長いので、いつか今回の巻物の続きも描いてみたいですね。

 

 

 

PROFILE

谷村紀明

1988年、京都生まれ。東京在住。拠点は全国各地。
すべての”もの”や”こと”に含まれるエネルギーを、自身のアイデンティティや空気感を作品に表現。自然や風土、文化の継承などをテーマとした、もののけアートを創作し活動。広告芸術誌『Lürzer’s ARCHIVE』の「世界ベスト200イラストレーター」に選出。『極楽浄土AR』が文化庁メディア芸術祭にて審査委員会推薦作品に選出。その他、国内・国外の広告賞多数受賞。コピックアワード審査員、絵本、造形デザイン、アニメ、アートコンサルティングなども精力的に手がける。

 

クリエイティブチーム「操演と機電」
(左:ナカムラリョウ/右:タカハシヒョウリ)

特撮リスペクトバンド・科楽特奏隊のメンバーでもあるナカムラリョウとタカハシヒョウリによるクリエイティブユニット。豊富な特撮知識と怪獣愛を活かして絵巻制作をアシストするとともに、企画全体のプランニングに関わる。

 


左:ナカムラリョウ氏(操演と機電) 中央:谷村紀明氏 右:タカハシヒョウリ氏(操演と機電)

 

開催概要

ウルトラマン55周年記念『ウルトラ怪獣もののけ絵巻展』

  • 会場:shina Ginza gallery
  • 会期:2021年10月15日(金)~11月14日(日)  入場無料
  • 開館時間:11:00 ~ 18:00<月曜定休>
  • 出展:谷村紀明 (もののけ絵巻)
  • 企画運営:タキヒヨー株式会社
  • 開催協力:株式会社円谷プロダクション
  • 制作:株式会社インフィニティスタイル、株式会社HONNOW 
  • 企画協力:クリエイティブチーム 操演と機電 (ナカムラリョウ/タカハシヒョウリ)

※詳細は、公式HPにてご確認ください。