【スカルプターズ・ムービー】伝説のクリエーターがストップモーションで描きだす、驚異のダークファンタジー完成!

 

テキスト・神武団四郎

 

『スター・ウォーズ』や『ロボコップ』、『ジュラシック・パーク』を手がけた視覚効果クリエーターでストップモーション・アニメーターのフィル・ティペットが、30年越しで打ち込んできた長編ストップモーション・アニメーション『Mad God』がついに完成。第74回ロカルノ国際映画祭(8月4日~8月14日)でワールドプレミアが行われる。すでに同映画祭でティペットは、映画界に貢献したクリエーターに授与されるヴィジョン賞を受賞している。

 

まずティペットのキャリアを簡単にふり返りたい。VFX工房ティペット・スタジオを主催するティペットは、60年代よりストップモーションを中心に視覚効果の世界で活躍しているクリエーター。『スター・ウォーズ』(1977)で怪物のコマを使ったゲーム“ホロチェス”を、続く『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)でトーントーンやAT-AT ウォーカーを手がけたことで、その名を知らしめた。

そのままILMで多くの作品に参加したティペットは、クリーチャー部門のチーフを務めた『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』(1983)でアカデミー視覚効果賞を受賞。それを機にILMを離れ、サンフランシスコにティペット・スタジオを設立した。その後は『ロボコップ』シリーズ(1987〜1993)や二度目のオスカーに輝いた『ジュラシック・パーク』(1993)、『スターシップ・トゥールーパーズ』(1997)などヒット作を手がけ、視覚効果の第一人者として定着。『スターシップ・トゥルパーズ2』(2004)では監督デビューを飾っている。

 

 

 
出典:『モンスターメイカーズ』(洋泉社)
ティペット・スタジオでのスナップ。『ジュラシック・パーク』を機にストップモーショからCGIへと舵を切ったが、『スターシップ・トゥルーパーズ』まではコマ撮りしたパペットの動きをデジタル化するDIDシステムを使用していた。

            


出典:『モンスターメイカーズ』(洋泉社)
はじめてポール・ヴァーホーヴェンとコンビを組んだ『ロボコップ』より、ED-209をアニメート中。 

 

出典:『モンスターメイカーズ』(洋泉社)
『スターシップ・トゥルーパーズ』の現場中のスナップ。手にしているのは合成ガイド用のバグの爪。 

 

現在は第一線から退いているティペットだが、恐竜コンサルタントとして『ジュラシック・ワールド』(2015)に参加。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)や『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)ではホロチェスのコマ撮りを監修するなど、長年培ってきたクリーチャー作りの手腕はいまだ健在だ。

 

ティペット・スタジオHP より、参加作品の舞台裏をみてみよう。

STAR WARS:THE FORCE AWAKENS

SOLO : A STAR WARS STORY

 

そんなティペットの監督作『Mad God』は、主人公“殺し屋”が悪夢のような世界で繰り広げる驚異のダークファンタジー。ティペットは映画にインスピレーションを与えた人物として、チェコのイジィ・トルンカ、ロシア生まれのヴワディスワウ・スタレーヴィチら人形アニメーション作家のほか、実験映画監督ガイ・マディン、画家ヒエロニムス・ボス、造形家ジョゼフ・コーネルら前衛アーティストの名を挙げており、『Mad God』もストーリーを追っていく通常の映画とは異なる構成になっているという。

 

ティペットが『Mad God』に着手したのは『ロボコップ2』(1990)の視覚効果を終えた89年後半から90年にかけての頃。制作にあたりハリウッドで売り込みをかけたが、アート映画に資金を出すスタジオはなく自主制作でプロジェクトをスタートさせた。ティペットはILM退社後にも古代生物の生態をストップモーションで描いた短編『Prehistoric Beast』(1985)を自主制作しており、『Mad God』は2作目のティペット・スタジオ作品となる。

ところが6分ほど撮影した段階で作品のスケールがふくらみすぎ、また映画のデジタル化の波が押し寄せたことから作業を中断。そのままプロジェクトは止まってしまう。それから10数年後、6分のフッテージを見たティペット・スタジオのメンバーがプロジェクト継続を切望したことからティペットは撮影を再開。娘が衣裳作りを手伝うなど身内も参加し、Kickstarterで募った資金をもとにようやく完成にこぎ着けた。

 

ストップモーションの分野でも、ティペットらいわゆる“特撮畑”のアニメーターは、コマ撮りの技術に加えて本編(俳優たち実写映像)と融合する映像が求められる。ティペットが高く評価されているのはこの部分の巧さで、『Mad God』のトレーラーを見ても、自由自在に動くカメラワークや微妙に画面を揺らしたり、キャラクターごとに動きを変えるなど、凝った描写が見てとれる。アート系ストップモーションにはテクニカルな面を重視しない作品もあるが、『Mad God』はイメージだけでなく映像のクオリティでも観る者を圧倒してくれそうだ。

 

すでに複数の映画祭への出品が決まっているという『Mad God』だが、いまのところ本国を含め一般公開に関するアナウンスはされていない。一日も早く日本で上映される日が来ることを祈りたい。