【スカルプターズ GARDEN】美男子を語る 第4夜・『同級生』/石長櫻子

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注目の女性原型師に美男子造形について語ってもらう連載「美男子を語る」。第4回は石長櫻子さん!

今回は中村明日美子先生の傑作BL漫画『同級生』のノンスケールフィギュアを語っていただきました。この作品はWFでガレージキットとして発表後、FREEingより製品化。表情、手指、喉仏の大きさ……原作への石長さんの愛が隅々まで詰まっています。

——本作品を作ることになった経緯を教えてください。

中村明日美子さんの漫画との出会いからお話させて頂くと、『2週間のアバンチュール』という漫画の黒髪ボブの目つきの悪い女の子に惹かれて表紙買いをしました。2008年位の事だったと思います。

絵も好みだったしお話も面白かったので、他の作品も買ってみようと思って次に購入したのが『ばら色の頬のころ』でした。これも表紙の絵に惹かれて選びました。

その頃、男の子には創作対象としてあまり興味が無くて女の子ばかり作っていたのですが、中村明日美子さんの描く男の子があまりにも魅力的で、絵柄にとても感銘を受けました。線がとにかく綺麗だと思いました。そして鋭い目が特に好みでした。自分にしては珍しく女の子の絵柄よりも男の子の方が好みだなと思ったので、次にキャラクターの雰囲気が似ているように見えた『同級生』を購入しました。話の内容が甘酸っぱくて爽やかで、今までそんなにBLは読んでこなかったのですがとても気に入って、友人にも勧めたりしました。

しかし、あまりにも絵柄が綺麗過ぎたので立体として作る自信がなく、しばらくは眺めるだけでした。

転機としては、2015年に黒執事のシエルを制作する機会を頂きまして、最初は男の子を作った事がなかったので自信がなくお断りしようと思ったのですが、本当に有難い事に枢やな先生から熱いご要望を頂きまして、挑戦してみようという気持ちになりました。その後シエルを何とか上手く形にする事が出来たのと、同級生映画化の話題が出て気持ちが盛り上がったタイミングでもあり、今度は挑戦してみる事にしました。

WFで発表されたガレージキット版の原型。

——原作のご感想と2人への愛を語ってください。

若葉の季節に吹く爽やかな風のような印象でした。

本来なら出会う事のなかったであろう全然タイプの違う2人が、つまづき(マイナス)と思える事で出会い、すれ違いながらも運命の人になるという王道なお話をしっかり丁寧に描いていて心に響きました。

あと、とにかく顔が好きです。2人はつり目とたれ目でタイプの違う顔ですが、どちらも三白眼で好きです。

——今回の造形は、どのくらいの距離感の2人をイメージしていますか?

最初に出会った1年生の夏くらいのイメージです。まだぎこちない関係の頃です。

10代の頃の成長というのはとても早く、特に高校生の時期は少年から青年への過渡期ですので1年生と3年生では全然変わりますね。1年生の最初の頃は、個人差はありますがまだ中学生の延長くらいだなという印象がありますので、あまり大人っぽくない感じの造形になっています。

制作開始した当時は、青年を作れなかったからこの時期の造形にしたというのもありますが……やはり最初の印象で作りたかったというのもあります。

——石長さんの造形的フェチとは?

男体造形においては、特に手と腰回りに男性らしいフォルムが現れると思います。

白魚のような手でも男性と女性では少し違う、というかその少しの違いが大事になってくるので、手は気を使います。それと腰回りが一番の違いで、男性ならではの美しさが出せるポイントだと思います。なかなか難しい所で、まだ習得中なのですが、作っていて面白い部分です。

少年と青年、それから個人差によっても筋肉の付き方や体形の魅力的なポイントが違ってくるので、その違いを見つけて習得して行くのが楽しいです。

——中村明日美子先生の絵の特徴や魅力、立体化にあたって意識したポイントとは。

切れ長の三白眼、整った横顔、流れるような線、デフォルメの絶妙なバランス感覚。

誇張されて描かれている身体の部分も多く、そこが絵としての美しさでもあり、魅力、肝なので立体化はなかなか難しいだろうなと思っていました。

立体化するにあたってどこまで3次元的なリアルさと2次元の美しさを駆け引きすればよいか、と最初は悩みましたが、作り始めたらとにかく顔を似せたい、イラストから出てきたような造形の物が欲しい思い、ひたすら横顔と正面、斜めの整合性を取る事に時間を取りました。その時点で出来る力での限界までやりました。

今振り返ると100点満点とは言えないかもしれませんが、完成させたことにより力が付いた気がするので次回はもっと上手く作れるのでは・・・と思います。

——2人の造形で一番こだわったところ。

どちらも顔です。

今回は主に顔を作りたかったので、顔を大きめにすることにしたのですがそうなると全身像はかなり大きくなってしまいます。なので、胸像とすることにしたのですが全身のバランスを見れない事によって、体と頭のバランスを取るのが難しくなってしまい苦戦しました。

あと、佐条のメガネもこだわりました。メガネは顔の一部というくらい重要なので佐条の顔に合うよう、形から起こして作った専用のエッチングパーツです。データの作成から製造までを1人では出来なかったので、フィギュア用のエッチングメガネを作っている五菱重工さんにお手伝い頂きました。

——表情についてはいかがでしょうか。

佐条は草壁をとても意識しているのに表には出さない感じ。一見クールに見えるが、心の内は色々と考えているという風です。

草壁はそれに気が付いていて、でも口に出さないで見つめているという感じです。また、背中合わせにしても雰囲気が出るように、流し目にすると良いかなと。

飾り方にバリエーションが出来れば良いなと思いながら制作しました。

——それぞれの体格についてのこだわりを語ってください。

体つきは、草壁の方が男の子らしい感じが出るようにやや肩幅広めにしたのと、佐条の背筋を伸ばしたポーズと対比になるように猫背っぽいシルエットにしました。

佐条は草壁よりやや華奢めなイメージだったので、草壁より少しなで肩っぽいラインにしました。

——手の表現、大きさ・形・ポーズについてのこだわりを語ってください。

ポーズは、元々最初に作っていたガレージキット版では、2人の対比が出るように、佐条は人付き合いがあまり得意ではなく体に腕を巻きつけて自分を守っている感じ、逆に草壁は開放的でおおらかな雰囲気が出ている感じで、両手をポケットに突っ掛けているのも草壁っぽいかなと思いました。

指先も佐条はシュッと閉じて繊細な感じで、草壁はリラックスしている感じです。

佐条の楽譜を持つ右手は目立つ部分なので、特に指先にも表情をつける事を意識して造形しました。

本当は絵柄的には手は特徴のあるタッチでもう少しゴツっとした感じなのですが、個人的な好みを入れさせて頂きまして細めに造形しましたが、指先は絵柄の感じが出るよう少しボリュームを出して、華奢になり過ぎないよう気を付けました。

あとは、筋と関節が出ている手が好きなので、ゴツくなり過ぎない程度に造形しました。手は結構好みが出てしまいますね……。

PVC版の方は、メーカーさんの方から指輪を持たせたいというコンセプトを聞いておりましたので、少し変更することになりました。2人の腕がリボンで結ばれているというアイディアもメーカーさんのご提案なのですが、すごく素敵だなあと思いました。

——首についてのこだわりを語ってください。

首回りはフェチズムを出せるポイントなので、鎖骨周りはややデフォルメしていることが多いです。個人的に長めの首が美しいと思っているので、やや長めにすることも多いです。

今回、2人の喉仏は意図して大きさを変えました。イメージでは最初、草壁の方が喉仏が大きいような気がしましたが、ギャップで、逆の方がより良いのでは?と思い、佐条の方をやや大きめ(目立つように)にしました。

——それぞれの髪型についてのこだわりを語ってください。

草壁は一見複雑な髪型で形もいつも一緒ではないので難しそうですが、個人的にはこういう感じの造形は好きなので、それ程苦労せずに形を出せたかなと思います。全体が均一に細かくなり過ぎないようにメリハリをつけ、部分部分ある程度省略するのを意識しましたが、線の集まっている部分はもう1本くらい線があるように見える造形にすれば良かったかなという気もします。

佐条はびしっとしたシンプルな髪型で簡単そうに思えたのですが、分け目や髪のボリュームの少しの違いで佐条らしくなくなるので、ちょっと予想外に時間が掛かりました。キッチリ形が決まっているシンプルな物の方がイメージが固まっているので造形するのが難しい気がします。

——塗装について。

肌の赤味は人物塗装で色気が出る重要なポイントだと思うのですが、位置は関節部分やパーツの末端、陰になる部分に入れます。本当の人間のそのままではなくて、メリハリが出るかなと思う位置に入れます。あまりたくさんのポイントに入れ過ぎるとメリハリが出なくなるので、全体に入れ過ぎないように気を付けます。

エアブラシで赤味の強い肌色を先端に強めに吹くのですが、加減が難しいのでやり過ぎないくらいにしておいて、最後の仕上げの段階で、パステル(タミヤのウェザリングマスター フィギュア用 GもしくはH)で赤味を足しています。

全体的な塗装については、最初から濃い色は使わないようにして、薄めの色を何度も重ねてグラデーションが出るようにしていきます。その後、同色の濃い色を作って影になる所に徐々に重ねて行きます。ハイライトになる部分にはあまり塗料が掛からないようにしてベースの白を残り気味にしておきます。何度も吹いているうちにうっすらと色が乗ってくるくらいにすると濃淡が出ます。

使用している塗料は模型用のラッカー、エナメルと面相にアクリル絵の具です。

石長さんが人物によく使う塗装道具。

——2人の着こなしの違いについて。2人の間に風を吹かせた理由とは?

単行本の表紙をモチーフにしているので、概ねそのイラストに準じているのですが、2人の性格の違いが分かりやすく出せるのが着こなしの違いなので、草壁は柔らかくゆるっと、佐条はカッチリとして几帳面な感じが出るよう心がけました。

ネクタイが風になびいているのもイラスト準拠ではあるのですが、造形的な視点で空間への立体的なアプローチと、風を感じさせることによって場面の一瞬が見えるよう時間を感じる事によって物語性を高められ、印象に残るのではと思いそのまま採用しました。

——美男子のどこに魅力を感じますか?愛を思い切り語ってください。

自分とは違う世界にいる隔絶された感じですかね。絶対に手が届かないというか、手を出してはいけないというか。届かないから良いのでは。そして造形だと自分の理想を自分で作り出して手にする事が出来るのが良いです。そのためにはこれからも精進しないといけません。

——石長さん理想の男体造形とは。

私は顔に対する興味が大きいようで、一番は顔に注目してしまいます。鋭い目、三白眼が好きです。黒い長髪だとさらに良いです。絵柄で言うと田島昭宇さんの描かれる男性が好きです。

全身造形としては、中性的なボディラインが理想です。

漫画でいうと、前述の中村明日美子さんの「ばら色の頬のころに」に登場するユージーンや、「Aの劇場」に収録されているお話のアリステアというキャラクターのような男の子もとても好きで、こういうタイプのドールを作りたいと思っています。

筋肉の美しさについては、まだ分からないので勉強中です。最近少し分かってきたような気もしますが、まだまだこれからですね。

 

Profile

いわなが・さくらこ

2003年頃から海洋堂主催「ワンダーフェスティバル」に参加し、本格的に造形に取り組みだす。2006年、ワンダーショウケース(第1434番目)に選出され、2007年より商業造型を手掛ける。主な作品に「Fate/Grand Order アヴェンジャー/ジャンヌ・ダルク[オルタ]昏き焔を纏いし竜の魔女」、「ブラック★ロックシューター inexhaustible Ver.」など。最新作は「十三機兵防衛圏 冬坂五百里」。一方でワンフェスにも参加をつづけ、創作作品を発表している。

Twitter:@shokuen

 

製品情報

作品名:同級生
商品名:Statue and ring style 佐条利人 草壁光
カテゴリー:ノンスケールフィギュア
メーカー:FREEing
仕様:PVC製塗装済み完成品&リングセット・NONスケール・全高:各約120mm
指輪(銀色):シルバー925 ロジウムメッキ キュービックジルコニア
指輪(金色):シルバー925 18金メッキ

原型制作:植物少女園
彩色協力:植物少女園
リングデザイン:LO COCO & KUBPART(ロココ&クッパルト)

©︎中村明日美子/茜新社

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