【スカルプターズ GARDEN】塗りの美学・鳴海 —ガレージキットとドールペイントの間で—

美しいもの&かわいいものが好きなラボメンバーに贈るスカルプターズ GARDEN】始動!

 

透明感のある塗り、儚げな世界観。フィニッシャー・鳴海さんの手がけたガレージキットは独特の魅力を放つ。

ガレージキットとドールペイントの間を歩む独自の手法は、どうやって生み出されたのだろうか。

田中快房原型「空想蒸気浪漫譚 いろはだより 特殊郵便配達員 寺脇まり」

下2点撮影:北浦栄)

全体を赤っぽくしたのは、既に村上圭吾さんが青でとても素敵に塗っていらしたので、私は別の色にしようという単純な理由でした。ただ、そのほかの部分が決まらなかったので、一旦絵を描いてどうしたいか考えているうちに、その頃近所で撮影した彼岸花が赤と白で綺麗だったことを思い出しまして、肌を青白くしたのだったと思います。

最初は着物に彼岸花を描くつもりでしたが、結局邪魔になる気がしてやめました。

ブーツの造形が本当にかっこよくて、塗り終わったこのパーツだけで何度も撮影した覚えがあります。

塚田貴士原型「天夜叉」

こちらを製作する少し前にカンボジアに行って森の中の遺跡を巡ったのがあまりにもよかったのと、滞在先で見た蓮の花を折ったものが可愛かったので、そこから色が決まっていきました。 

手や爪の造形がとても素敵で、宝飾品のような感じに仕上げたかったので、金色を装飾的に使い、筆で模様を付け足したりしています。

眉間をしかめた感じが怒っているような、泣きそうな感じにも見えたので、瞳が少し潤んだ感じに見えるようにしました。クリヤーを多めに盛り、粘膜の赤を少し濃い目にすると、充血したような感じが出ます。

さと原型「『刀剣乱舞-ONLINE-』大倶利伽羅 軽装」

©️2015 EXNOA LLC/Nitroplus  

ファンアートとして『SCULPTORS04』に掲載

上の2作品と違い、色の指定がありますので基本的にはそこに合わせるように色を決めていますが、キャラクターから逸脱しない範囲で生きている感じを出したくて手探りしています。

刀を持って構えているポーズということもあり、どこかで体温を感じられたらいいなと思ったので、関節や指先、目頭など、やりすぎない程度に血色感を入れさせていただいています。

爪も本当に小さなパーツですが、しっかり造形されているので、それに沿って描き込むだけでぐっと情報量が増えるので塗っていて楽しいところです。

この作品は本当に背中の筋肉がたまらなく良いので、より強調されるようにシャドウを入れました。

Interview

鳴海さんの作業スペース&コレクション。

大切なツールの数々。

——フィニッシャーになったきっかけは?

Twitterで作品を見た方々にお声がけいただいたのがきっかけです。好きな造形を好きな色で自分の部屋に飾れたらいいなあという単純な思いからガレージキットを塗り始めたので、その時は仕事になるとは思っていませんでした。

——塗る際にもっともこだわっていることは?

少し生っぽさというか、生きている感が出せるようにしたいと思うことが多いです。

——全体の雰囲気を作る秘訣を教えてください。

自分で自由に色が決められる時は、旅先で撮ってきた写真や映画、MVなど、この色合いが好きと思ったものを眺めながら探していきます。写っている被写体がこれから塗る作品と全く関係なくても、色が合うかだけを考えるので、意外とどんな写真でも大丈夫です。果物が並んでいる市場だったり、いい色のタイルが並んでいる壁だったり、植物園で見た苔だったり、デパートのディスプレイだったり、ビールとおつまみだったり、本当にいろいろです。

塗る前に紙に描いてみることもあります。出来上がってみるとその通りにはならないことの方が多いですが、迷っている時は描いてみると自分の中で決まっていない部分が分かるのでおすすめです。個人の方からご依頼をいただいて作品を作る時は、送っていただいたイラストや、提示されたイメージなどを中心に色を決めていきます。

色のまとまりが保てるように、作品の中心になる色(面積の多い部分や、そのキャラクターを表す部分)を決めたらその他の部分を近い彩度で揃えていくことが多いです。部分的に彩度を上げてポイントにすることもありますが、あまり欲張るとバラバラになるので、最初に決めた中心になる色が映えているかを確かめながら進めていきます。

「空想蒸気浪漫譚 いろはだより 特殊郵便配達員 寺脇まり」を塗る前に描いたスケッチ。

——肌の塗り方を教えてください。

肌の色はその時によってまちまちで、その都度調色します。ラッカーのクリアー系塗料や純色・色の源シリーズを混ぜて作っています。サフレスで塗装していましたが、最近は白サフとクリアーの上から塗ることも多くなりました。

仕上げの段階でパステルも部分的に使用しています。ヤスリで削って筆でのせることが多いです。もともとドールメイクから立体物への塗装をスタートしているので、ガレージキットを塗る時もドールメイクの手法とのハイブリッドな感じです。

皮膚の薄そうなところはクリアーブルーやグリーンを吹きます。最初に吹くこともありますし、後から吹くこともあります。血色感を入れたいところはラッカーで粘膜クリアーを吹いたり、エナメルのクリアーレッドを塗ったり、後からパステルで入れたりしています。

——目元・瞳の塗り方を教えてください。

造形や目線の向きに合わせて良さそうな線を手探りしています。全体の雰囲気に合わせつつも印象的なポイントになるように、下瞼やアイラインで目が気持ち大きめに見えるようにすることが多いです。このあたりは人間のメイクと同じだと思います。

使用画材は、最初はアクリル絵の具をメインに使っていましたが、最近は乾きの速さから、ラッカーとエナメルに変わりましたがどちらも好きです。

粘膜を描くと生っぽくなって好きなので、造形的に描ける場合は必ず描きます。描いていてとても楽しいところです。

表情を決めるのは眉毛の役割が大きいので、角度に気をつけながら描いていきます。眉を描き込める造形の時は毛並みを一本ずつ描きます。睫毛も同様です。

大畠雅人原型「Black rock city」

——爪の表現について教えてください。

肌を塗った後に、上からラッカーやエナメル、パステルを筆で乗せていきます。使用する色はその肌の色によってまちまちですが、肌よりも少し赤みのある色を作って塗っています。

半月のところや爪の先はホワイトを薄めて筆塗りしています。ほんの小さな部分ですが、ここも描いていて楽しいところなのでついつい描いてしまいます。

錬金術工房/荒木元太郎原型「ユノア兄 ハンドパーツ」

 Profile

鳴海(なるみ)

小さい時から絵を描くことが好きで、高校は美術を専門的に学べる総合学科の学校へ、大学は教育学部の美術科へ進みました。高校の時から油彩専攻です。卒業後は小学校の教員になりました。子どもたちと一緒に作ったり描いたり活動したりする図工の時間が大好きでした。

その後球体関節人形に出会ってドールメイクを始めたのをスタートに、1/6や1/12ドールのアイペイント、その後ほぼ独学でガレージキット塗装を始めました。約10年、Twitterで作品発表し続けていましたが、ご縁があってご依頼をいただくようになり、現在はフリーランスのフィニッシャーとして活動しています。

趣味はゲームと旅行です。ゲームは、『ARK: Survival Evolved』・『THE DIVISION・『デス・ストランディング』・『The Forest』などジャンル問わずやります。『ICO』など、上田文人さんのゲームが特に好きです。旅行は、旅先で植物園や博物館、遺跡、市場などを巡り、撮影してきては彩色の際の色選びの資料にしています。旅慣れた友人と一緒にいろいろな所に行きましたが、特に台湾とカンボジアが好きです。

Twitter:@_narumi HP: siruetoco.com

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