
撮影:小松 陽祐
「光は神」――。
そう言い切る世界的アーティスト、空山 基氏。磨き上げられた鏡面の反射に宿る官能と未来性。その唯一無二の表現はキム・ジョーンズやThe Weeknd、ルイス・ハミルトンやステラ・マッカートニーをはじめ、世界中のトップクリエイターたちを魅了し続けている。東京・京橋のCREATIVE MUSEUM TOKYOで開催中の『SORAYAMA 光・透明・反射 ーTOKYOー』は、空山氏の美学を没入的に体感できる大規模個展だ。79歳を超えた今なお、時代の先端を更新し続ける理由とは何か。創作への執念と美意識、そして造形における一切の妥協を許さない美の基準について、空山氏本人に聞いた。
まず、『SORAYAMA 光・透明・反射 ーTOKYOー』の展示ディレクションについて。
空山 基(以下、空):細かいディレクションはしてませんが、個展のコンセプトは色で分けるようにとお願いしています。モノトーンの部屋、赤の部屋、ピンクの部屋、といった具合にね。会場にはできるだけびっしり作品を並べてほしいとも伝えました。1枚ずつ大事そうに並べるのは貧乏くさい表現だから。お客さんは「ウプッ」てくらい見たいわけじゃない。
「光・透明・反射」というテーマは?
空:これは今回あらためて、ではなくずっと私がやってきたこと。「金属に興味がありますか」とよく聞かれるけど、私の絵は金属ではなく光と反射と透明を描いてるのよ。光、写り込み、反射があって初めて金属に見える。光って神なんです。不透明なマテリアルも、光を入れると透明に見える。皮膚や地面もそう。絵を描く人でないとわからないかもしれないけど、そのステージを勝負しなければ意味ないんだよね。
メタリックな装丁の豪華図録『SORAYAMA THE GYNOIDS SUBLIME』もEditions Trevilleから発売中です。
空:最初は図録なんかいらないって言ってたんです。「それは困る」と言われたので(笑)、図録にはノンブル、解説テキスト、タイトルも入れないでほしい、と。自分の絵にタイトルをつけるのは絵描きとして負け戦、私の絵には全部タイトルがないんです。「それじゃどうやって編集したらいいんですか」って聞かれて、そりゃ好きにしなよって(笑)。
Space TravelerやSexy Robot_Floatingといった造形作品に対する美意識を教えてください。
空:造形に求めるものは美しい重力と、無重力の表現。
フィギュアも大理石の彫刻も銅像も、羽根や髪の毛がみんな重い。私は軽い流れる髪、有機的な流れを考えている造形、風をはらんで微かに揺れる表現を探求しています。表現に対して遠慮するとそこで限界がくる。そのせこいレベルでの遠慮は捨てた方がいい。今は3Dプリンターの発達によって、昔は難しかった繊細な表現が造形でできるようになった。だからもっと自由に、表現と向き合うべきです。
たとえばダンサーも「こうやると腕が伸びる!」と言われて「いや生物学的に伸びません」ではダメなのよ。いかに伸びるように見えるか、を追求すべきなんです。人間の跳躍力は限界があるけど、空中に浮いてるように見せる表現はできる。そういうファンタジーを作品に入れなくては。
今、造形作家のKくんと組んで、あるプロジェクトに向けて8メートルぐらいの巨大造形作品を作っています。2004年に開催されたナイキ主催のアートプロジェクト「WHITE DUNK TOKYO」で、ナイキのマーク・パーカーに頼まれて「戦いのあと、汗ばんだ肌に白い服が張り付いたNIKEの女神(ニケ)」を描いた。造形で表現できる原型師を探してもらってね。今回のプロジェクトは、それと同じことをKくんとやろうとしていますが……Kくん、「やってみたいです」というからお願いしたけれど、かわいそうに悩んでいるかもしれない(笑)。
加筆中のアダムとイブがコンセプトの作品。壁に垂直に近い形で立てかけ、立って描く。確認は「スマホで撮るよ。全体像も見えるし」
「軽やかさ」「風」を具象化できていると思われる造形家はいらっしゃいますか?
空:Luo Li Rong(ルオ・リロン/羅麗蓉)は注目しています。髪の毛だけでなく、眉の濡れた表現もすばらしい。輪郭をちぎって飛ばして、風を感じるね。世界はこういう次元のところで動いてるんだと思う。
1700年代、ナポリのジュゼッペ・サンマルティーノの「ヴェールを被ったキリスト」も、大理石で布の軽さや透明を表現している。トップの彫刻家たちは昔からこうやって凌ぎ削っているんだなと。
やっぱり空山さんにとってデッサンの狂いというのはありえない?
空:デッサンの狂いは、私にとってノイズなのよ。誰の絵だって、デッサンが狂っていれば修正します。「質感が描けない」ならば質感が必要な絵はやめたほうがいい、方向性を軌道修正したほうがいいと思う。
「不気味の谷」についてはどう思われますか。
空:愛とセンスと才能があればクリアできます。だけど「不気味の谷」を作る人たちは時間と予算がないんです、と言い訳をする。締め切りと予算の制約があるうえで、それを超えるエネルギーをかけるためにはもうお仕事で流してはダメなんです。
たとえば1980年代にスーパーリアルのムーブメントがあったけど、「写真の通りに描く」こと自体は、ある程度やれば誰にでもできる。でも私は、写真をそのまま写していたわけじゃない。金属はなぜ金属に見えるのか、光はどう反射するのか、透明や水はなぜそう見えるのか……その方程式を、自分の中で翻訳しながら描いていた。それをやらなかった人たちは、みんないなくなったでしょう。結局、表面だけ真似しても不気味の谷は超えられないんです。
空山さんの目で光はどう見えているのですか?
空:光が「光って見える感覚」は、写真や印刷、カメラ表現などによって、現代人の中に記号として蓄積されている。そういう方法論、記号を描いてあげればいいのよ。つまり、今まで表現できなかったものを、不透明な絵の具でどう表現するかなんです。たとえば私の作品を300年前の人が見ても、光っているとは感じないと思う。でも現代人が見ると「光っているように見える」のは、現代人が写真や映像の記号を知っているからなんです。
ディズニーのアニメーションだったかな。砂漠を横断していて、太陽がまぶしくて喉が渇いて死にそう、というシーンで、カメラのフレア表現を入れていたんですよ。そうすると、観客はまぶしい、と理解できる。雪だって、本物の雪をただ描くだけでは今の人には寒さが伝わりにくい。だから雪の結晶を記号として入れてあげる。そうすると説得力が出る。つまり、時代ごとに「リアルの記号」は変わっていくんです。
鏡面仕上げの造形作品と、絵画作品の両方に通じる光の表現について教えてください
空:鏡面仕上げは写真を撮ると、鏡面同士で“キャッチボール”が起きる。反射が反射を呼んで、徐々に像が消えていく。鏡だって反射率は70%くらいしかない。人間が作るものに100%なんてないから、最後までは見えないんです。でも3~4回くらいの反射までは、ほとんど実像に近い虚像が残る。
私は、その現象を全部「嘘」で描いています。例えば、この絵(下のアダムとイブ)では指同士は本来もっと複雑に映り込む。それを影を消したり反射率を落としたりして、あえて整理して立体として認識しやすく描くんです。胸の表現もそう。本当ならもっと周囲の景色や顔が映り込む。でもそれをリアルに描きすぎると気持ち悪くなるから、陰影だけで処理してわかりやすい嘘に置き換えるんです。反射率を部分ごとにコントロールして、像になる部分は意図的に反射を弱めるの。そうすると人間は、金属だと記号として認識できる。
もし全部リアルに描いたら、ウロコでも花でも周囲のものが全部映り込むでしょ。そうなると、今度は「不気味の谷」に入ってしまう。私はよく「謙遜気味に嘘をつく」と言うけど、それは完全に戦略なんですよ。実際、本物の金属オブジェよりも、私は絵で描いた“嘘の反射”のほうが美しく見えます。現実より嘘のほうがリアルに感じられることがあるんです。
だから、商品化でも本当は素材選びがすごく重要なんですよ。金にすればもっと映り込みが美しくなるのに、赤にされちゃったりする(笑)。映り込みって、それくらい作品の印象を左右するものなんです。
これだけ長く第一線でクリエイターとして走り続けられる秘訣は?
空:昔、編集者の田中ひろこさんから学ばせてもらったことのひとつが、“作品をちゃんとフィルム化・データ化して残す”ということ。それまで私は、自分の絵をきちんとアーカイブしていなかった。それで収入のかなりの部分を使って、作品ができるたびに全部撮影するようになったんです。そうしておくと、海外から仕事の依頼が来た時にすぐ「これです」って渡せるんですよ。今は全部デジタルだけど、ちゃんとデータ化しておけば出版社から次々にオファーが来る。これまで50冊くらい作品集を出してるけど「原画はいまどこにありますか?」「データはありますか?」と聞かれて管理をちゃんとしていないと、作品集は続かないんです。
あとは、周りのスタッフが動きやすい環境を作ることをすごく大事にしています。イラストレーターの中には印税でもめたりする人もいるけど、そんなところで争う必要ないんですよ。ちゃんと広げれば、その先でいくらでも仕事になるんだから。私はカメラマンにも、単純なギャラ払いでなくプリントや二次使用の利益も含めて払って、ちゃんと彼らの収入になる仕組みにしています。そうするとみんな本気でやってくれる。やればやるほど彼らの利益になるように、最初からシステムを作っているんですよ。
コラボレーション作品では、オーダーで描かれたりもするのですか?
空:ジャケットなどのオファーが来ても、描き下ろしは別にしなくていいんですよ。だって結局は二次使用なんだから。新しく描き起こしたところで、クライアントが気に入るかどうかなんてわからない。私はもう2万点近く描いてきてるから、その中から選んだほうが結果的にヒットする確率は高いんです。だから私は「無理に描き下ろさないほうがいいですよ」と言うんです。向こうのためを思ってね。
そもそもオーダーって嫌でしょう? 「私の絵を描いてよ」と頼まれても、そのまま描いたら「こんな顔じゃない」と言われる(笑)。昔なんか、女王の肖像画を気に入られなかったら絵描きは殺されてたんだから。しかも難しいのは、綺麗に描かなきゃいけない。でも綺麗に描くと、今度は「似てない」って言われるんです(笑)。
最後に、空山さんの創作哲学について教えてください
空:私は、今まで「できない」と言われて諦められてきたことをやりたい。今まであるものを真似するってかっこ悪い。最新の技術、新しい材料とか、可能性は無限だしできることがいっぱいある。絵のシーンでも、世界のアートショーに行ったら現代アートで蛍光色なんかは当たり前。だから美術学校で「蛍光色は使うな」って言われても、どんどん使ったらいいと思う。私も「空山さんが生きてる間は劣化なんかしませんよ」と言われて「じゃあ使おう」って使っています(笑)。そういうDNAを、有能な人に伝えたい。私のDNAが、ミームが生き残るから、今はそのステージで動いています。
Profile
空山 基
1947年愛媛県生まれ。中央美術学園卒業。
展示概要
- SORAYAMA 光・透明・反射 ーTOKYOー
- 会期:2026年3月14日~2026年5月31日
- 会場:CREATIVE MUSEUM TOKYO(東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 6F)
- 企画:NANZUKA
- 主催:ソニー・ミュージックエンタテインメント
- 開館時間:10:00~18:00
※(金)(土)および祝前日は20:00閉館
※最終入場は閉館30分前
- 企画協力:ソニー・クリエィティブプロダクツ
来場者特典
エアロスミス『Just Push Play』25周年を記念し、空山基氏によるアルバムアートワークを配した特別デザインのステッカーをプレゼント。開幕日となる3月14日(土)より、会場にて来場者特典としてエアロスミス『Just Push Play』25周年を記念した限定ステッカーが配布される。今展示のテーマでもある「光」「透明」「反射」の美学を想起させるメタリックな世界観を凝縮したデザインのステッカーで、展覧会体験の余韻とともに持ち帰れる、特別なノベルティです。
Photomatic
セルフフォトブランドPhotomaticのブースにて、全7種のコラボレーションフレームを限定発売。 作品の世界観と一体になれる、特別な撮影体験を楽しむことができる。
THEME CAFE「SORAYAMA TAKEN CAFE&BAR」もオープン!
2024年7月、渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)にオープンしたアートバー 「NANZUKA TAKEN」から派生した本展覧会のテーマCAFE&BARが限定オープン。限定メニューの「Space Traveler’s Course」も!
特別企画
攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL
士郎正宗原作の漫画『攻殻機動隊』に登場する全身義体(サイボーグ)の草薙素子にインスパイアされた新作を展示。 TOKYO NODE GALLERY A/B/Cで開催される『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』ではもう一つの新作彫像も登場します。








