【スカルプターズ GARDEN】美男子を語る 第3夜・『ヒトごろし』/MIDORO 後編

美しいもの&かわいいものが好きなラボメンバーに贈るスカルプターズ GARDEN】始動!

 

毎月、注目の女性原型師に美男子造形について語ってもらう連載「美男子を語る」。第3回はMIDOROさん!

テーマは前回に引き続き京極夏彦の小説『ヒトごろし』の文庫版カバー造形について。歳三という人物、そしてMIDOROさんの思う美男子造形についてよりディープに語っていただきました。

『ヒトごろし』カバー造形/MIDORO
Original sculpture, 2020 撮影:MIDORO

——『ヒトごろし』主人公、土方歳三への愛を語ってください。

神が人に対して起こした現象、であるような孤高さ

私が一番強く感じ忘れられないことは、この本の中の世界の神、の歳三に対する絶大で超絶な愛、でした。歳三はあのような生き方をしています。でもその世界には、歳三のように生きることを歳三にだけは許した神がいるように思います。私は読み進めながらその生き方や行動の意味や是非を吟味したりという気には全くなりませんでした。それはかなしいかな傍観するだけで十分なほどのまぶしさがあったためです。歳三が何をしても、その生き方によって何にどういう結果を生み出しても、この世界の神さまは歳三のことしか見ていなく、歳三にしか夢中じゃないのです。

歳三はもはや、神が人に対して起こした現象、であるような孤高さと疾風の勢いを持って人の世を吹き抜けていきました。私たちが何を思おうが、神様の決めることです。みたいな。読みながら、こんな男が居ることが、あまりの全能からの愛されように嫉妬してしまう気持ちさえ生じさせます。私が何をもってそう感じたかは自身の語彙力では説明しがたいところが悔やまれますが……。

世界で一番歳三の事を好きなのは京極先生かもしれない

この本の壮大な世界の神様って誰か。それって、京極先生の事です。当初新潮社の方に「これまで描かれた土方歳三像を好きな方の一部にとっては、ショッキングな内容と感じるかもしれない」と言われていました。まさにそうだと思います。でも不思議なのです。私は読んでいるとき、京極先生って土方歳三をめちゃめちゃ好きなんだな、世界で一番歳三の事を好きなのは京極先生かもしれない。どんな人が読んでもそれが伝わらないわけは無いほどの愛です。大丈夫。と、そのことがやけに、感じられました。

これは、創生するものの愛によっては創られた存在が時にこんなにも高く輝くことを教えていました。なので、私はその愛をかいま見ただけの名もなき悲しい存在であり傍観者です。しかし、このちっぽけな疎外感みたいな悲しい感情、これを感じられる手の届かない主人公には、なかなかお目にかかれないと思います。こういった人物像に出会えることは、感性にとって貴重な体験です。

前編で「嵐が来て、花や草木を倒して去っていくように、何もこもっていない」ことを目指したと語られた、歳三の表情。

——理想の男体造形とは。

好きな身長は186cm

長身なだけでけっこう全員好きです。

いつも、作るかどうか決める際に身長の設定を調べて、低かったら作るのをやめたりしています。私は実在の俳優の名前は全然覚えないのですが、身長だけは覚えています。最近映像を見た感じで俳優が何cmかだいたい当てられるようになってきました。漫画などを見て好きなキャラクターができた時に一番に調べるのは身長です。私が一番好きなのは186cmです。

私は最初に造形したいと思ったのがたまたま真島吾朗(『龍が如く』)だったので、最初のお手本は長いこと真島さんでした。卵からかえったヒヨコがお母さんと間違えてついていくような感じで、最初に見た真島さんについて行ってしまったので、そうなったのかもしれません。

長身を作るといっても、フィギュアが等身大とかではない限り、その身長を見た人に伝えるにはどういう造形で長身感を出せばいいかに、粘土を始めたころからこだわっています。これは、たとえば「20cmちょうどになるように」185cmの人を作るのと170cmの人を作るのは、明確に違いを出さなければ私にとっては大問題なのですが、どうしたらより良いのか、そこが今までずっと関心ごとです。

「ごく普通のおじさん」の小気味よさ

『龍が如く』のキャラは骨で、性格を如実に表した姿勢をとっており、極めて実写なので、造形もあるていど本物の人っぽくないと雰囲気が似なく、初心者ながらも美術解剖図とかプラストミック人体標本の本を見てめちゃくちゃ練習したのは覚えています。写実的かつセミリアルな造形を練習できたのは、もともとまで思い出せば真島さんのおかげかもしれません(ヒヨコの絵文字×10)。

ただ、自然な感じや違和感のない感じを造形でやりたいと思っていても、なかなか思うようにはいかないものです。そんな時、町や道で、ごく普通のおじさんがただ突っ立ったり横断歩道で信号待ちをしているなどの姿を見ると、足の感じや背筋の感じを見てて、なんて上手い造形なんだと思うことがあります。服の皺や重心、質感や生きている感じも、完璧。ビジュアル的にいわゆるかっこよさはなくても、直すところは見当たりません。作るのに何時間かかったか、途方もない作業量です。どんなに頑張って渋美男子を作っても、あの感じの小気味よさはまだ出せたことがないように思います。どんな人間もみな私にとっては、そういう造形的驚愕にあふれています。

原型(左)と完成品(右)の背中。左右の肩の高さや体のひねりなど、まさに歳三の性格を感じさせる立ち姿。

Profile

みどろ

WFなどで版権ガレージキットを制作。時に商業フィギュアにも携わる。今のところ手原型、主にファンドとスカルピーを好む造形家。

Twitter:@_MIDORO_

書籍情報

『文庫版 ヒトごろし〔上〕』京極夏彦/著
1,210円(税込)https://www.shinchosha.co.jp/book/135354/

『文庫版 ヒトごろし〔下〕』京極夏彦/著

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