徳川家康生誕の地・岡崎城天守閣にデジタルアートを投影——プロジェクションマッピングによる幻想的なXRエンターテインメント

テキスト・神武団四郎
 
202218日〜10日の期間、名古屋を拠点とするデジタルアーティスト集団・一旗プロデュースによる「岡崎城天守閣 プロジェクションマッピング」が開催された。この催しは愛知県岡崎市の岡崎城天守閣で史上初めて行われたプロジェクションマッピングで、3D技術を駆使してデジタルアートコンテンツを投影するXRエンターテイメントと言える。地域の歴史的な文化財や伝統を新たな解釈で昇華させ観客を魅了したプロジェクションマッピングの舞台裏を、株式会社一旗の代表取締役でプロデューサーの東山武明氏に聞いた。
 

 

Interview

「岡崎城天守閣プロジェクションマッピング」はどのように企画されたのでしょうか?

徳川家康生誕の地として有名な岡崎市は日本100名城の岡崎城(復興城)がある岡崎公園を含む中心市街地のナイトタイムエコノミー創出に力を入れています。これまでも岡崎城大手門や檜造りの桜城橋でのプロジェクションマッピングを仕掛けてきましたが、回を重ねるごとに集客力や経済効果が高まり、ついに史上初の岡崎城天守閣でのプロジェクションマッピングが実現できることになりました。

多くの観光都市が抱える悩みとして、日中は大勢の観光客がいますが、夜は観光客が極端に少なくなるという課題があります。プロジェクションマッピングは暗い環境でないと開催ができないため、必然的に夜の開催となります。したがって、プロジェクションマッピングの開催によって夕食や宿泊といった夜の経済効果につながるという大きなメリットがあります。

コンテンツの作り方についてお聞かせください。

プロジェクションマッピングは、建物など立体物の形状に沿って映像を投影する技術です。そのため映像を制作する前提として建物の3Dモデルが必要になります。今回の場合は岡崎城天守閣のプロジェクションマッピングよりも前に株式会社ABALとの協業により「岡崎城1645VR」というVRコンテンツの企画を進めており、もともとVR用に制作していた岡崎城の3Dモデルをプロジェクションマッピングに応用する、という流れができました。

 

岡崎城天守閣の3Dモデルはどのように作られたのでしょうか?

現在の岡崎城天守閣は1959年に再建されたいわゆる「復興城」で、紙の建築図面が残っていました。その建築図面を元に、数週間かけて3Dモデルを制作しています。

 

「岡崎城 1645VR」では現存しない岡崎城郭全体を3DCGで再現しています。天守閣以外はどのように制作したのでしょうか?

「岡崎城1645VR」は全国屈指の規模を誇っていたと言われる1645年ごろの岡崎城郭をイメージして再現したVRです。近年再建された天守閣や大手門は図面から3Dモデルを起こすことができますが、それ以外は図面がありません。そこで、岡崎城天守閣の歴史資料館に展示してあるジオラマからフォトグラメトリ(様々な方向から撮影した写真を解析して3DCGを制作する手法)によって粗い3DCGを制作し、そこから細部を整えながら完成させました。

「岡崎城天守閣 プロジェクションマッピング」の制作で一番苦労されたのはどんなところでしょうか?

他のプロジェクションマッピングでも同じなのですが、単純にエンターテインメントとして多くの来場者の期待を超えて感動していただけるような演出を生み出すのに最も苦労します。岡崎城天守閣の手前には大きな松の木があり、松の木への投影も含めた複雑な設計にせざるを得ず、難易度が高かったです。

演出としては岡崎市にある徳川将軍家の菩提寺・大樹寺が所蔵する重要文化財の襖絵に描かれた牡丹の花や岡崎市が誇る伝統産業・三河花火といった地域ならではのモチーフをもとにしたモーショングラフィックスや3DCG、現代的なデジタルアートも織り混ぜながら、起承転結を意識した構成にまとめ上げました。松の木の立体感もいかすことで、結果としては来場者に満足いただける作品になったと思います。

今後の構想や課題についてお聞かせください。

プロジェクションマッピングは投影対象があればどこでも実現でき、多くの観光地の課題であるナイトタイムエコノミー創出に大きな効果がある技術だと考えています。また、投影映像にその土地ならではの文化芸術や伝統をモチーフとしたコンテンツを織り交ぜることで、その場所でしか体験できない、付加価値の高いエンターテインメントが提供できるため、まだまだ大きな可能性を秘めています。

また、3Dモデルを応用してVRARの展開も可能で、メタバースの構築もできます。バーチャルの課題としてはリアルの感動には及ばないことですが、リアルとバーチャルを連動させることで新しい体験価値が創出できないかと考えています。
今後のプロジェクションマッピングは東海地方のさまざまな自治体などからお声がけをいただいているほか、7月にはサンマリノ共和国の世界遺産で現地の国立大学と共同でのプロジェクションマッピングも予定しており、初の海外での作品となります。
名古屋を拠点としながらも、さまざまな土地でデジタル技術を駆使した新しい「祭り」を仕掛けるアーティスト集団として、チャレンジを続けていきたいです。


高田本山専修寺 国宝 御影堂プロジェクションマッピング

 

Profile

東山武明
株式会社一旗  代表取締役

1980年東京都生まれ。2002年日本放送協会(NHK)に入局。2019年にNHKを退職後、名古屋を拠点に株式会社一旗を設立。プロデューサー・総合演出として『岡崎城天守閣 プロジェクションマッピング』をはじめ『高田本山専修寺 国宝 御影堂プロジェクションマッピング』『ミッドランドスクエア スカイプロムナード DIGITAL ART MUSEUM “CRYSTAL”光の空中庭園』『名古屋マリオットアソシアホテル 光のクリスタルクリスマス』などの大規模なプロジェクションマッピングやインスタレーションを手がける。2019年12月には一旗の代表を務めながら、内閣官房・国務大臣秘書官(国家公務員特別職)に任命。IT政策、科学技術、知的財産戦略、クールジャパン戦略、宇宙政策担当大臣の筆頭秘書官を務めた経歴も。内閣府・KADOKAWA「クールジャパンコンテスト2020」動画部門奨励賞など受賞。

 

株式会社一旗 会社概要

株式会社一旗は、名古屋を拠点とするデジタルコミュニケーションカンパニーです。
プロジェクションマッピングマッピング、VR/AR、インスタレーション、プロモーションビデオなどのデジタルコンテンツと、パブリックリレーションズ(PR)やイベント、キャンペーン、ブランディングなどのコミュニケーション戦略を提供し、心が豊かになる、想像を超えた未来の創造を目指します。

商号:株式会社 一旗(英文表記 HITOHATA,INC.)
代表取締役:東山武明
設立:2019年7月1日
所在地
(Head office)
〒451-0042  愛知県名古屋市西区那古野2-14-1 
                       なごのキャンパス3F 3-10
(Creative studio)
〒461-0001  愛知県名古屋市東区泉3-5-1
                       SK BUILDING-501 A901
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