『役目を終え、死んでしまった「廃材(もの)」たちに、もう一度、「生命(いのち)」を吹き込む』をコンセプトに活動されている廃材再生師の加治聖哉さん。廃棄されるだけになってしまった「廃材」でダイナミックな等身大の動物から手のひらサイズの動物まで制作。素材を活かした作品を作り続ける加治さんにお話を伺いました。廃材アートのワークフローも公開中です!
INTERVIEW 加治聖哉
――廃材アートを始めたきっかけについて。
長岡造形大学で学んでいた時に、建築学科の友達が授業で椅子とか家具を作る授業があって、みんなデザインチック、アートチックな椅子を作っていたのですが、それらから出た廃材がコンテナの中に捨てられていて、漠然と「まだ使えるのにもったいないな」と感じたんです。そこから何かできないかなと思った時に動物が好きだから動物を作ってみようというのがきっかけです。
――加治さんも建築学科だったのでしょうか?
私は、美術・工芸学科です。
――実寸サイズで作ろうと思ったのも大学時代ですか?
そうですね。迫力があって面白いんじゃないかと思って実寸で作り始めました。
――材料となる廃材はどこから仕入れていますか?
現在活動している地域の工務店さんや木工作家さんからいただいています。
――材料は無償で?
そうですね。廃棄するのにもお金がかかるため引き取ってくれて助かっているとお聞きしています。なので、材料自体は無償でいただいています。
――購入したものではなく廃材で作るというのが根本的なのでしょうか。
さすがに強度的に危ない材料や安全面を重視しなければならない材料は購入したものを使うこともありますが、作品の表面に見えているところなど廃材をそのまま使える箇所は100%廃材で作ろうと思っています。
――加治さんの思う廃材ならではの魅力とは?
廃材一つ一つにも背景やストーリーがあって面白いと思いますし、お家を建てた時に出た廃材は大工さんが見たら「これはあの家を建てた時に出た廃材だな」とか、住まわれているかたが見たら「我が家の廃材が使われているかもしれない」って思ってもらえると面白いなと思います。そういう思い出やストーリーを持っているのが廃材の魅力のひとつですし、同じ形というか同じものは2個存在しないので、形が似ていても実は同じではないんです。一つ一つにそれぞれの個性があるというのが廃材の魅力です。
――例えば大きな熊を作ろうとなった時に、欲しいサイズの廃材待ちということもありますか?
ありますね。やっぱり“この材料がいい!”っていう時は材料を待つこともあります。いただいた廃材は記憶しているので、こんなのを作ろうかなと考えたときに、ここはあそこにあったあの廃材を使おうと思いを巡らせて作っています。
「神籬」について
――ワークフローを教えてください。
①モチーフを決めたら骨格のイラストに比率を出す
②その比率を軸に棒材で素体を作る
③棒材で作った素体に板材を貼っていく
④毛並みや表情などディテールをつける
⑤完成
――組み立て式になっていますが、その方法を始めたのはこれが最初ですか?
大学生の時に作った「麒麟」は、運搬面を考えないといけない状況でしたので、この頃から組み立て式を意識しながら作っていました。
――人が乗ることができるほどの強度がありますが、それを想定して設計されましたか?
そうですね。私が乗りたいと思って作っているので最初から乗ることができることを想定した設計にしています。例えば、動物を作る時は、骨格から作り始めているのですが、まずは骨格標本の写真や図を印刷して、それに基づいて比率の計算をして実物に置き換えてというプロセスで作っています。自然界にいるオオカミだったらオオカミの生物的強度は出ているんじゃないかと思っています。
――躍動感のあるポーズはどのようにデザインされているんですか?
自分でスケッチをするとリアルとかけ離れていってしまうというか本物ではなくなってしまうので、写真家さんが撮った自然な姿の生き物の写真からデザインしています。作品によりますが、イラストとかのポージングを見たりして、こういうポージングにしようかなというのを自分の中で想像しながら作っています。
恥ずかしながら、私、デジタルに疎くて。デジタル知識があれば他にも色々と展開できるんじゃないかと思いますが、今は、頭の中で考えた方が早いなと考えています。
――「神籬」で一番難しかったところはどこですか?
毛並みとかの細かな表現です。廃材自体は堅い素材なので、それらでいかに毛並みのふわふわ感を表現できるのかということと、一応威嚇してるポージングで作っているのでそれが伝わるような表現をどういう風に材料を使っていくことで実現できるかということが一番苦労したところです。
――加治さんなりの毛の法則などはありますか?
実は、毛並みを表現するのは結構簡単でして、適当に廃材を貼り付けても流れだけ揃えればそれっぽくなるんですが、毛がない動物、例えば魚は表面がツルツルしているので素材をゴテゴテ付けてしまうと変に見えるんです。なので、その辺は使い分けをしながら工夫しています。毛並みだったら毛並みらしく先端が尖っていれば、その方向性だけでそれっぽく見えるのかなって思っているので、自分で見つけた法則ではありますね。あとは、動物に合わせて材料を選べばいいだけなので、どういう方向で毛が走っているかと意識して作っています。
――制作時間は?
作業時間だけをぎゅっとしたら3~4週間です。早く作らないと私が飽きちゃうので(笑)。
「麒麟」について
――たてがみや尻尾にかんなくずを使用されていますが、かんなくずも廃材と同様に仕入れているのでしょうか?
そうですね、同じく建具屋さんとか工務店さんからいただいて使用しているものです。
――重力に負けないかんなくずの加工方法は?
私が今活動している栃尾地域にワイン用のぶどう畑があります。そこの選定したぶどうのツルを中に仕込み、ツルの軸にかんなくずを貼り付けていく感じで毛並みを表現しています。
――後ろ足だけで立っているダイナミックなポーズですが、再現するのに参考にされた資料はありますか?
色々資料は集めました。麒麟は空想上の生き物なので、30種類くらい資料を集めてその中から自分なりの麒麟を作りました。私の場合、構図でオリジナリティを出すというより、何よりも廃材で作っているというところがオリジナルだと思っています。
それに、立体作品には平面作品にはない魅力があって、同じポージングで作っても色々な角度から構図を切り取れます。色々な角度から見てもらうと雰囲気や印象が変わってくるのでそこが平面にはない部分でもあります。
――麒麟の実寸ってどのくらいなんですか。
空想上の生き物ですから麒麟に関しては感覚ですね(笑)。迫力が出ればいいのかなって思っていたので馬よりも大きいくらいが丁度良いと考えて作りました。
――広い工房を借りられているんですね。
「麒麟」を作っているところは私が空き家を改装して作ったギャラリーなので天井は4メートルくらいあります。最近まで地域おこし協力隊をやっていまして、その事業のメインが空き家を改装してギャラリーとして作ってそれを運営するってところまでがワンセットだったので。電気とか水道関係以外は私がやりました。
――「麒麟」の制作時間は?
1ヶ月くらいです。
――1ヶ月以上だと飽きてしまう?
飽きちゃいますね。1ヶ月でも飽きながら作っています(笑)。
――この「麒麟」は鉄筋を使用されていますが、他にも鉄筋を使用されている作品はありますか?
他の作品ですと「カジキマグロ」は鉄筋を使用しています。作品のポージングが不安定なものに関しては鉄筋を入れるようにはしています。
――小さな作品だとどのくらいのお時間で完成されますか?
「雨蛙」くらい小さいのであれば4~5時間で作ることができます。ある程度パターンが固まっていてすぐにできるものが結構多いですね。
――1万匹を目標にイワシを作られていますが、イワシを作り始めたきっかけはありますか?
これまでに作った作品で、一番小さい作品は「蚊」、一番大きな作品で20メートルくらいあります。次にどうやって作品を面白く見せようかなって思った時に、「数」というところに至り、群れでやりたいなと思っていました。現在活動している栃尾地域は数十年前まで布を作る産業が栄えていた地域なんですが、今はだいぶ廃れてきて結構工場も潰れてしまっていて、そこから布を織るために使用する糸が巻かれていた木材を1万本くらいいただきました。じゃあ1万匹なにか作るかと考えた時に、やっぱり魚かなって。イワシが一番群れっぽくなるのかなっていうところからイワシを作っています。
――1万匹を達成されたら展示される予定などはありますか?
あります。1万匹を作ってギネス記録を取りたいので、数えてもらってからイワシトルネードみたいな迫力のある展示にしたいです。その他には、クラウドファンディングをやった際の返礼品としてお配りしようかなと思っています。
――6月まで栃尾地域おこし協力隊に就任されていましたが、ズバリ栃尾の魅力とは?
栃尾地域とは前からちょっと関わりがありまして、人柄が良いです。雪がめちゃくちゃ降る地域なので助け合う文化があると思うんですど、その中で人との繋がりは強いと思います。私は地域外から来たみたいな立ち位置なのでどうかな?と思っていたんですが、ぽっと出の人にも優しいというか、気にかけてくれる人が結構多くて「ご飯食べたか?」とか「最近どうしてる?」って言っていただけて嬉しいです。食で困ったことはほぼないですね(笑)。そのくらい良くしていただいている地域です。
――加治さんがされているレンタルアートとは?
例えば、誰かがイベントを打つとして、その人は良いイベントにしたいわけです。そのためには集客の目玉になるような目立つものが欲しいという時に、大きい作品とか会場装飾があるといいなって考えると思うんです。その時に、その時に、装飾を買うのは予算的に厳しい、買ったとしてそれを保管するための倉庫や維持が大変。加えて、搬入や設置などでさらに人件費がかかって大変だというときに、全部こっちが補えるなって思いました。色々ある作品の中から選べますし、イベントの規模感でサイズも選べる。搬入は私で完結できて、場所の維持とかも考えなくて良くて、買うよりも安く提供できるというメリットを感じてもらえるのでレンタルアートをやっています。でも、一番の理由は私自身が私の作品を一番好きなので手放したくないからです。
――では販売はされていないんですか?
小さい作品の販売やオーダーメイド作品の販売もやっているんですが、結局作った作品たちが全部かわいいので、どんなものであれ手放すときは身を切るような思いでやっています。なので、全く販売しないわけではなく、大きな作品も買い手がいらしたら販売もしますし、ただ大きい作品だとお金も場所も必要になりますが。
――加治さんが影響を受けた人は?
前に村上隆さんのスタジオで働いていた時期があり、その時に村上さんから教えていただいた言葉で学んだことがあるので村上さんの影響は受けていますね。あとはおじいちゃんです。おじいちゃんが大工をしていて、木の扱いや道具の使い方とかさっきのギャラリーもおじいちゃんからアドバイスをもらいながら作りました。
――今後挑戦したいものについて。
現在活動している栃尾地域を拠点として、関東、日本、海外に向けて作品展示や制作をしていきたいと思っています。あとは有名なアートフェアに実際に参加するとかもそうなんですけど、一番は皆さんに作品と廃材の可能性を見ていただいて広めていきたいっていうのが今の一番の目標です。
Profile
加治聖哉
廃材再生師/Scrap wood artist
1996年生まれ。新潟県村上村出身。
長岡造形大学を卒業後、(有)カイカイキキに在籍。現在は廃材で原寸大サイズの動物を作るアーティストとして独立。
Twitter:@scrapanimal
Instagram:@19960308sk