外国人や海外メディアも絶賛する、「石」でアート作品を手がけるスカルプター・伊藤博敏インタビュー

石材店を営みながら、アート作品を制作している伊藤博敏さん

伊藤さんの作品は日本だけではなく海外でも反響を呼んでおり、海外メディアなどにも取り上げられています。さらに、過去にはアメリカやフランスなど世界各国で個展が開催されるなど今注目のスカルプター!

今回、伊藤さんに作品の制作秘話や石の魅力などをお伺いしました!

 

INTERVIEW 伊藤博敏

——石材店を営んでいらっしゃいますが、「石」でアート作品を制作しようとしたきっかけを教えてください。

我が家は私で5代目の石屋で、学生の頃から長男だから継がねばならないと思っていました。
石で彫刻をやりたいとは思っていませんでしたが、東京藝術大学時代に金属工芸(鍛金)に触れ、先輩方の作品を見るうちに素材と言うより立体表現の面白さに目覚めた感じです。石屋になって、せっかく大きな石から石ころまで身近に転がっている環境なのだからこれを活かしてみたいと考えるようになりました。

——「笑い石」シリーズについて。「笑い」の表情にされた理由を教えてください。

まず、私の作品の根底にあるテーマみたいなところで「ユーモアと毒」を意識して制作しています。笑う石はその最たる物かもしれません。タイトルは「口の堅い奴ら」です。舌が付いているものは「舐めた奴ら」といいます。80年代に参加した公募展に出品したのが最初ですね。その前からファスナーを石に付けるシリーズを制作していて、「口にチャックって言うから」と単純な理由で歯を入れてみました。気持ち悪い印象になるのはわかっていたのでせめて笑顔にしようかと思いました。


作品「口の堅い奴ら」


作品「舐めた奴ら」

——表情は何通りもありますが、参考にしているものはありますか?

特に参考にしているものはありません。
石によってそれぞれの人格(石格?)が違って見えるように考えます。歯茎の見える量や口を開く大きさなど、加工している石に下描きをしながら決めていきます。

——「おいしい石の調理法」「お箸の国の石だもの」など、食べ物モチーフの作品を制作した経緯を教えてください。

私は暮らしの中からヒントを得ることが多く、食べ物シリーズもそれです。
石と対局の柔らかい物として食べ物をモチーフに選びました。リアルにその形に作る場合もありますが、自然石のフォルムを活かし、ナイフなどと組み合わせることで食べ物にも見える「見立て」の手法も使っています。


作品「お箸の国の石だもの」

——固い石で柔らかさや滑らかさを表現するコツがありましたら教えてください。

動作の途中を形にすることが滑らかだったり柔らかかったりする印象をより強くすると思います。ファスナーも動きの途中にすることで、開くのか閉じるのかという先の動きを鑑賞者が想像してくれます。

——今まで制作した作品の中で一番のお気に入りを教えてください。

ナイフや包丁で石を切る「おいしい石の調理法」です。初めての個展のときに、「私はこれからこんな風に石を加工していくんです」という宣言をしたつもりの作品だからです。原点ですね。苦労しそうな作品は基本的に作りません。


作品「おいしい石の調理法」

——伊藤さんにとって「石」の魅力とは?

石は“地球のカケラ”ですから、ひとつひとつに個性があり加工しながらその石がその形に至るまでの物語を聞かせてもらっている気分になります。
それが魅力です。だから石は語り部です。

——お気に入りの石はありますか?

地元の梓川水系の石です。

——削りやすい「石」はありますか?

大理石や凝灰岩や砂岩は柔らかくて加工しやすいですよ。

——制作する際に使用する道具などを教えてください。

石頭(セットウ)・ノミ・コヤスケ・ダイヤモンド工具・サンドブラストなど。


道具

——ざっくりとしたワークフローを教えてください。

作る作品によって違います。

<パターン1>
①石を選ぶ
②彫る
③完成

<パターン2>
①石を選ぶ
②彫る
③異素材と組み合わせる
④完成

——石を川辺で見つけているシーンを拝見しましたが、石を決める際に重視していることはありますか?

石ころとして完結していること。川の石は偏平な形が多いのでできるだけふっくらした物を選びます。

——今後の野望を教えてください。

あと20年現役を続けることぐらいです。

 

Profile

伊藤博敏 Itoh Hirotoshi

1958 長野県松本市に生まれる
1982 東京藝術大學美術学部工藝科卒業
1987 アトリエヌーボーコンペ審査員賞
1990 東京デイリーアートコンペ入選
1992 アビターレイルテンポ(イタリア)参加
1995 第2回トリックアートコンペ優秀賞
2006 個展「石笑う」朝日美術館
          個展”Pleasures of Paradox” (USA)
          SOFA Chicago シカゴ(USA)
2007 SOFA New York(08,09)(USA)
2008 MIASA EXHIBIT メンドシーノ (USA)
2009 個展 Marble and Stone Sculpture (AU)
2010 MIASA EXHIBIT メンドシーノ (USA)
2011 個展”Pleasures of Paradox ’11″(USA)
2013 アートフェア東京
2015 HEY! Modern Art & Pop Culture (フランス)
2016 SOMMERUDSTILLINGEN (デンマーク)
2017 CAILLOU PAPIER CISEAUX (フランス)
         個展”Pleasures of Paradox”(ルーマニア)
2019 Art Safari Bucharest(ルーマニア)
2020 HUMORISME 2020(デンマーク)
2021 Lille Art Up(フランス)
          くどやま芸術祭(和歌山)

ほか各地で個展を中心に作品を発表

Twitter:@jiyuseki
Instagram:@itohirotoshi